今はなき懐かしのトンネル
新潟県は小千谷市から山古志村を通り抜け、広神村に抜ける国道291号線。越後の里山を抜けていくという感じがぴったりのひなびた道だ。しかし、対向車がほとんど来ない。大型ダンプはもちろんのこと、普通車すらすれ違うことがない。「ふーん、この先のトンネルが狭いって書いてあるからみんな嫌がって通らないのかな」と位に考えながら走っていた。
突然ちょっとした広場に出た。広い道はそこで終わっていた。その先には、いきなり写真のような手掘り系のトンネルが口を開けていた。
「中山トンネル」。これがこのトンネルの名称だ。入り口には、「高さ1.5m、幅1.4m」とある。バイクだから1.4m幅はいいとしても、高さ150cmというのはなんだか(結構)恐い。うかつに頭を上げ加減に走っていたら、天井から大いなるいかずちでも食らいそうな高さだ。中は真っ暗。ほんの数ヶ所、申し訳程度に蛍光灯がついているが、1km近い長さのこのトンネルだけにほとんど申し訳程度のものであることは明白だ。車が来ないのも道理で、幅1.4mしかないのだから、普通乗用車では両脇がつっかえてしまう。運悪くトンネル内でハマってしまったら、特にセダン系の場合はドアが開かないのだから万事休すと言うことになるわけだ。
タバコを一服。よし、出発だ。
いざ入っていくと、最初のうちこそ天井も高く下も舗装。こりゃえーわ、思ったほどじゃなかったな、と考えたのもつかの間。中央核心部に進むに従って舗装は砂と小石系に変わり、壁からは岩が突き出て、しかも、外気温との差によって濃いガスが生じている。ここで往生した。進むにも何も見えず、戻るにもバイクを反転することなど不可能なのだ。バイクのライトは煌々とトンネル内の霧を白く浮かび上がらせている。しかたない、おそるおそる進んで何とか事なきを得た。出口におけるTakemaのメガネはしっかり露だらけで、おかげで作業員の方をひきそうになってしまったことを覚えている。
それから数年後、今度は反対側からこのトンネルを抜けようとした。しかし、トンネル入り口付近にてあえなく通行止め。新しい立派なトンネルを制作中ということらしかった。まぁ国道だし、いつまでもあのトンネルのままではまずいだろうということなのだろうが、結局このトンネルも最初で最後の経験になってしまった。
(1994/8下旬 新潟県山古志村にて。古いなぁこの写真!)