正直者でよかった?

****** 以下のお話は、実話に基づいて構築されたフィクションです。って、どっちなんだよ(笑) ******

むかぁしむかし、あるところにたけまおじぃとおしんこどんばぁという名の夫婦が住んでおりました。

ふたりとも、それはそれは「馬鹿をみる」ほどの正直者で、まちがっても趣味の海外旅行のエアチケット予約にふたまたをかけるようなことはせず、たけまおじぃはたけまおじぃで、1100ccオーバー、160馬力の「超黒鳥」とかいう二輪駕篭を所有しながらも、そいつを高速で「よっしゃぁ行ったれぇ!」などとぶん回すようなことは決して行わず、あくまで「高速の制限速度は100kmだからそれ以上出してはいかん!しかしそれなのにこのバイクはなぜ330kmまでメーターの目盛りが切ってあるんじゃろうなぁ」などと日々不思議に思うくらいであったとかいうことなのですな。

そんな夫婦が、ある時あきたという所に温泉野宿旅行に出かけた時のおはなし。

あきたの中でもうどんの美味しいことで有名な、稲庭だか箱庭だかいうところあたりにさしかかった頃、おしんこどんばぁはふとあることを思い出しました。

「たけまどんや、そういやこのあたりで『やまとしずく』とかいう、それはそれは美味しいお酒を売っているんだそうな。でものぅ、何でも『特約店にしか卸さない』とかいうムツカしい掟があるようでのぅ、われわれ一介の旅行者がおいそれと買える代物ではないのだそうな。せっかくここまで来たのに残念じゃのう」

「ほほぉ、しんこどんよ、何だか妙に詳しいのぅ。しかし残念じゃが、所詮我々の手に入らんのでは仕方がないのぅ。」

「そうよのぅ、残念じゃ」

しかしまさにその時です。たけまおじぃの運転する四輪駕篭が、とある酒茶屋の前を通りがかりました。しかしそこには何と「やまとしずく 大吟醸」と墨で書かれた立派な客寄せの貼り紙が。



さっぱり系でしたな。ホントは限定系のお酒って、その方式が好きじゃないんだけれどまぁよろし。

酒茶屋に入ると、冷やし箱の中に確かに「やまとしずく」なる銘品がいくつか並んでおったのだそうな。しかし、たけまおじぃが見てみると、ちょっと悩む品揃えだったのだそうです。いわく、

「おやおやしんこどんよ、ただ『やまとしずく』と言っても、ここにあるだけで「本醸生酒」「純米吟醸」「純米大吟醸」と三種あるが、どれが一番よいのかのぅ」

「わたしゃ酒の味は最近ようわからんようになってのぅ、えぇからたけまどんが好きなのを選びゃええのやで。」

困ったたけまおじぃは、「せっかくなら精米歩合も一番磨かれている純米大吟醸とかがよかろう」ということで、冷やし箱から取り出したそれを帳場のほうに持って行ったのですな。

されど、金子支払いの段になりちょっと一悶着。
おばば 「1350銭だがな」
たけまどん 「んなことはあるまい、2600銭のはずやが」
おばば 「いんや、1350銭じゃ」
たけまどん 「そりゃ本醸生酒の正札じゃがな」
おばば 「ありゃ、そうだったかいな?んじゃちょっくら見てくるわな」
しかし結果としては、どうやらたけまおじぃの言うほうが正しかったようです。
おばば 「あんれまぁ、そうだったかい、純米大吟醸だったんかい、わたしゃそのへんの違いがようわからんでのぅ」
たけまどん 「いんや構いやせんがな。このまま安く買ったとしても、あんまりええ酔い心地はできんからのぅ。でも、やっぱり黙っておったほうが良かったかのぅ。わっはっはぁ!」
酒茶店のおばばは、ふざけて「こりゃあいらんことを言うてしもうたかのう、黙ってりゃ半額近くで手に入れることができたでのう」と減らず口をたたくたけまおじぃにこう言ったそうです。

おばば「いやぁ、あんたらは正直だな。こっちも変に取りっぱぐれることもなくて済んだし、せっかくだからこれ持ってけ」

おばばが帳場から出してきたのは、あきたの誇る日本の美酒、「爛漫」の落とし紙収納箱でした。こりゃあまりにもレアもの珍しい物品です。というか、町の市場に出回るようなことはまずないようなシロモノなので、たけまどんしんこどんともに心の中で快哉を叫んだとか叫ばなかったとかいいます。



これ、ふたの部分を開けたら価値半減ですね。もったいなくて使えないなぁ。

というわけで、どうやらたけま&しんこ夫婦はまたも「大したものじゃないのにおいそれと捨てられないし使えない」物品を抱え込んでしまったようですな。というわけで、はぁどっとわらい。

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