紀伊のいで湯あなどれず!

おしんこどん@元奈良県人と結婚する前、Takemaにとって関西地域、いや関西のみならず西日本はほぼ「未踏の地」であったといっていいでしょう。中学の時の修学旅行で京都奈良を訪問したあと、関西を訪ねたのはほぼ全て仕事がらみで2-3回だけ、それも仕事ゆえほんの表面をさらりとたどるばかりで、ゆっくりと回ったことは一度もありませんでした。国内編のコンテンツを見てもらえばわかると思いますが、北日本東日本はやたら濃厚なネタが多いのに、西日本ネタといえばいきなり唯一鹿児島になっちゃうくらいですからね。

しかし、彼女と結婚後は少し行動パターンが変わりました。「奈良の実家に帰省」という新たな目的が出来た以上、失礼ながら実家をベースにして周辺にお出かけするというのもいいかなぁと考えたわけです(「それって厳密に言えば『帰省』とは違いますよ」ってツッコミはなしね)。

出かけるのは奈良南部〜和歌山にかけての紀伊半島ど真ん中が多いんですが、初めて足を踏み入れたときに感じたのは紀伊の山深さ!標高こそ1500m程度とはいえその急峻な地形にびっくりした記憶があります。そういや子供の頃「十津川村というところは行くのも出るのも大変なところだ」というような話を学校で聞いたことがあったっけ。今ではもう随分道も良くなってますが、当時はさもありなん的なところだったのでしょう。

しかし、自分の持っていたこの地域のイメージはもう一つありました。それは「大した温泉はないんじゃないか」というもの。そもそも火山のある地域じゃないし、最近はボーリングで強引に湯をくみ上げる傾向があるから温泉自体はいくつかあるだろうけれど‥と。以前龍神温泉を訪問したときも、そのいわれはともかくとして湯そのものはいたって普通の感じで(三大美人の湯の一つなんですけれどね)、「やっぱりこの地域はこんなものなのかなぁ」と思った記憶があります。いや龍神が悪いんじゃなくて、こういう湯なら東北にはいくらだってあるぞって感じたんですけどね。

しかし、今回訪ねた湯の峰温泉にはたまげました。紀伊の湯の真骨頂ここにありというところでしょう。う、嬉しかったぁ!

中京&関西地域の人たちにはそれなりに有名な場所なんでしょうが、自分としてはかの有名な川湯温泉(実は有名すぎてあまり行こうとは思っていないんですが)のすぐ近くにこんないい雰囲気の温泉場があるとは考えてもみませんでした。しかも自噴の湯温は89.6度!(91度というのは昔の計測温なので今はないそうです)。近くの宿に泊まり、中心街まで足を延ばしてみたら川べりから湯気がモウモウと!

よく有名な温泉地に行くと、源泉が全て宿泊施設に送られてしまい、町のどこからも湯気が見えないことがありますよね。ここはそうじゃない!昔ながらの風情をよくぞ残したっ!という感じで、見ているだけで嬉しくなってきます。

さて、旅行前にガイドブックを見て「ここだけは行かずばなるまい!」と考えていたのが「つぼ湯」。なんでも小栗判官が湯治をしたという由緒ある?湯だそうで、湯の色も写真で見る限り乳白色をしていましたから、是非訪ねたい、ここを訪ねずに何とする!というイメージを持っていたのです。ちなみに浴場内には次のように記されていました。
常陸の国の小栗判官は、相模の国の郡代、横山将監の一人娘で東国一の美女と誉高い照手姫と恋に落ち、父横山の許しを得ず婿入りする。小栗は、父横山の怒りにふれ毒殺される。地獄に落ちた小栗は閻魔大王の計らいにより餓鬼の姿でこの世に戻される。その後藤沢のお上人様のお導きで照手と再会、「耳も聞こえず、目も見えず、物も言わぬ」餓鬼の身となった小栗は、照手の引く土車に乗せられ紀州熊野湯の峰温泉を目指し苦難の旅を続ける。途中善男善女の助けを受けながら藤沢を出て四百四十四日で湯の峰温泉に辿り着く。熊野権現の御加護と薬湯の効あって、つぼ湯に浴するうちに奇跡が起こり、四十九日にして小栗は見事に元の姿に回復する。

照手の情愛に支えられ、熊野で蘇生した小栗判官物語は室町時代のロマンとして今日まで語り伝えられている。
しかし、聞くところによればここは時間制による貸し切りなのだとか?ガイドブックにも載っているくらいだし、昨今の熊野古道ブームによって平日とはいえ押すな押すなの大行列になっていたらどうしようと、おそるおそる聞いてみると‥

「あ、いま県の取材の人たちが来てますが、もうあと10分くらいで空きますよ」

とのこと。さすが平日ど真ん中の木曜日!(ちなみに翌朝再訪したら待ち人ゼロですぐに入れました)。というわけで、いよいよ入浴!

河原に強引に!という感じで建つ湯小屋が「つぼ湯」。2人以上で行けば30分を限度に貸し切り出来るというのがすごいです。ただ見学者も多いみたい。ちなみに某所にカメラ&スピーカーが付けられており、公衆浴場でチケットを買った人以外がドアを開けようとすると「お客さん、チケット買って下さい。ちなみにただ今入浴中ですので開けてはダメですよ」とすぐにチェックされます。風情はないけれど仕方ないだろうなぁ。
と、その前に入浴料の話。つぼ湯入浴料は750円とのことですが、実はこれ、隣接する「くすり湯」(源泉100%もちろんかけ流し)とのセット料金。一般浴場は250円ですが加水しているというわけでくすり湯は高いんですね。ちなみに地元の方は「ちゃんと身体を洗えて安い」一般浴場に行かれますから、くすり湯は空いてますし100%はやっぱり嬉しいし。というわけで時間のある人にはつぼ湯とのセットも決して高くはないわけで、とにかく良心的な値段に一安心。伊豆近く某循環湯施設の1回入浴料2000円はやっぱり万死に値しますな。

ちなみにモニター画面のある事務所にいらっしゃる管理人さんですが、時間によって人は違っても皆さんなかなか愛想が良くて、何だかそれだけでも来た甲斐があるような気にさせられました。お湯は良くても雰囲気悪い、じゃとんでもないですしね(数ある温泉地の中にはそんなところもあるんですよぉ)。

なお!このつぼ湯入浴料を支払うと、もれなく?こんな物までいただけちゃったりします(在庫があるうちだけかも)。



おお、つぼ湯手ぬぐい!「四村川財産区」という飾り気のない発行者名がいい感じです。

というわけでいよいよ湯小屋内へ。結構隙間の多い造りですが、場所が場所だけにのぞかれることはほとんどないでしょうね。入口の外側には監視カメラもあるし(笑)。

いやぁ気持ちいいです。こんな白濁湯の公衆浴場を貸し切りで利用できるとは何ともありがたいシステムです。でもこんなシステムがあるということは、休日はかなりすごいことになっているような気もしますけれど。

しかしここで疑問がふつふつと。ちなみに源泉井は13本あるというこの湯の峰温泉ですが泉質はほぼ同じらしいようで、それなのになぜこの「つぼ湯」だけがこんなにも白濁なのでしょう?うちらの泊まった宿も、またそれ以外の宿のパンフを見てもお湯は無色透明でしたしねぇ。

管理人さんにそのことを聞いてみたら、こんな答えが返ってきました。
「いや、ここのくすり湯だってお客さんがたくさん入ったりすると少し白くなるんですよ。基本的には湯の花の関係でね、撹拌されることによって湯の花(目に見えないような小さなものも含む)がどんどん目立つようになるんですよ。で、つぼ湯の場合はまた別で、湯船の底に石が敷き詰めてあるでしょう?下から湧き上がってくる湯があの石を通ってくるもので、あそこに湯の花がたくさん付くんですよ。それであんなに白くなるというわけです。」
へぇ〜知らなかった!(あたりまえ)。勉強になりました。何はともあれ、思いがけずシブイ温泉場の雰囲気を味わえた紀伊山中でありました。というわけで、ここからは残りの写真を見て下さいな。



入口はこぉんな感じ。



中は何段か低くなっているので俯瞰写真が撮れたりします(笑)。



全景はこんな感じ♪



こちらは隣接する公衆浴場棟。くすり湯は貸し切りでまたまた感激たますだれ。



浴場の裏には源泉施設がありました。余り湯がこぼれていないかと思いましたがさすがになし(笑)。

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