− その3 蒲原温泉編 −

さて、続いてはトンネルを抜けて新潟県側へと北上します。本日3つめ&最後の野湯は「蒲原(がまはら)温泉」。しかしこの温泉名および温泉マークは最新の1/25000地図に記載されておりません。以前は小さな湯宿が一軒だけあったそうですが、1995年にこの周辺を襲った大洪水やその後の土石流などにより、この蒲原温泉のみならずこの姫川沿いの地域は軒並み大きな被害を受けたのだそうです。記憶にあるなぁ、国道や大糸線がずたずたに寸断されて、まるで国家プロジェクトのような大規模復旧工事になったんだっけ。

その後いくつかの温泉は移転したりして何とか復旧したのですが、この蒲原温泉については全く手つかずのまま現在に至っているということ、ただしお湯は今でも川原から湧き出ているという情報を聞きつけ、「では、是非とも訪問してみようではないか!」との思いに至ったわけでした。

しかし、現場付近に詳しいとある方にお聞きしたところ「現場付近は現在でも斜面の崩落が激しく、通過には大きな危険を伴う」ということのようです。少し躊躇しましたが、まぁ駄目もとで行けるところまで行ってみようかというわけで、行き方をご伝授いただいたわけですが、いやぁ、こりゃ知らなきゃ行かれないわ。



ここが歩きのスタート地点。真っ正面には雪渓が残っているのですが、崩れた土砂でほぼまっ茶になってます。ここは今でも崩落危険地帯です。

最初こそ小広い広場を歩いていくのですが、徐々に山が迫ってきて平坦エリアは狭くなります。しかも山の斜面はこれまた一部で崩落が始まっており、この日の天気(小雨時々どしゃ降り&風強し)ではかなりの圧迫感あり。というか、こういう日にこういう場所に行くべきじゃありませんね。今になって反省(遅いっ!)。

吹きつける雨と風はなかなかのもので、カメラを濡らさぬようにするのが精一杯。と、川沿いのコンクリート護岸を歩き始めたあたりですぐ正面に何やら動くものが。

その距離約10m。完全に彼の「やばいもんね警戒エリアばりばりだもんね」という本能的警戒距離の中に入りこんでます。しかしカモシカ(彼)自身は河原、こちらTakemaは護岸の上にいるという「位置エネルギーにおいて不利」の状況を彼がすぐさま理解したのか、また彼が逃げたい方向には雪解けと大雨で増水した姫川がごうごうとすごい音をとどろかせて流れているだけという「逃げるには明らかな不利状況」を理解したのか、そのカモシカは全く逃げようとはせずただじっとこちらを見つめるのみ。こちらもどうしようもないのでじっと見つめるのみ。そんな状況が20秒ほど続いた頃でしょうか。Takemaが「こ、この状況をカメラに収めたい!」という欲求に抗しきれず、カメラに手をやって一瞬視線をそらしたスキに‥、

どう見ても足がつかないほど深いところもありそうに思える本流の川渡り。いやぁさすが山に生きる動物のたくましさを感じずにはおられませんでした。でも目をそらした瞬間に「窮カモシカTakemaを噛む」的な行動を起こされなくて良かった(笑)。え、写真?そんなの撮る暇なかったって(苦笑)。

さてしかし、ここからは人間様Takemaくんとしても難関の突破が必要です。河床は完全に激流に飲み込まれていますから高巻くしかないのですが、コンクリ護岸の高さが途中から変わっており、そのまま乗り越えるのはかなり厳しいとの情報だったのです。というわけで進んでいくと、「こ、これか!」



なるほど、この状況はかなりキビシイ‥。

情報では、「ここさえ乗り越えられれば何とかなるかも」とのことでしたが、確かに下は渦巻く激流、かといって道具なしにこの段差はどうしても乗り越えられないはずです。自分も事前イメトレの段階では「この場所でたぶん断念せざるを得ないかなぁ」と思っていたのですが、上の写真を見ればもうおわかりでしょう。そう、「天国への階段」が設置されていたのです!

ただしこの「天国への階段」、「一歩間違えば地獄行き」であるのもまた事実であります。画像に見えているのは半分ちょいの高さまでですから実際に投降する距離はもっと高く、しかも全く固定はされておらず「ただ置かれているだけ」です。しかも繰り返しますがこの日の天候は「風雨強し」。ただでさえ滑りやすくもあり、また風でバランスを崩す可能性だって否定は出来ません。気を抜いて登っていけばハシゴがぐらつき、「うわ!あ゛あぁ−っ、ドボーン!」という状況だってあり得そうなのです。

重心が出来るだけ斜面側に来るように登り、とりあえず最初の難関は何とか突破しました。でも帰りはここを降りなきゃいけないんだよなぁというユーウツ感にさいなまされつつ‥。

続いては大崩落帯の通過です。上の画像を見てもらえばわかると思いますが、それこそ思うがままにがれきが堆積しています。そして上方を見ると、「へへへ、僕たちももうすぐ(予告なく)そっちへ行くからね!」といわんばかりの岩斜面壁が真上に迫っています。左上の画像には吊り橋が見えていますが、その支点部分はすでにかなりの瓦礫に埋もれてしまっていましたし。

「こりゃぁすごいところに来てしまった‥」と思ってもあとの祭りというしかありません。ガレ場を登り、足がかりのない段差を半ばジャンプ的に飛び降り、足場は崩れつい手でつかんだ岩がまさに浮き石ならぬ「浮き岩」だったりして冷や汗かいたり、一部の場所はホントにびくびくして通過しました。このレポートをお読みの方、真面目な話、軽い気持ちでは決して行かないでくださいね。ヘルメットの着用を切にお勧めいたします。



登山経験のある人なら、こういう場所で休もうとは思わないはず。しかもこの場所滞在中にも落石発生!

さて、その「超危険地帯」を通過するといよいよ源泉に到着です。よしよしと河原に向かって降りていくと‥、

おおっ(喜)!何やら先人のお作り給うた野湯船発見!この時だけは雨も風も見事にやんでいたこともあり、「えぇじゃないのさこれは!」と思わせるに十分でした。しかし‥

ご覧の通り、湯船全体が緑っぽく見えるのは全部藻の色なんですね。いや、この藻が生えること自体は悪くも何ともないんですが(どこの野湯でも結構あることですし)、やはりせっかくなら「たまり湯」じゃなくてもっといい湯に浸かりたいなぁというのが人情でしょ。

というわけですぐ上に湯気を上げている源泉をチェック!

おお!ちゃんと「源泉様」は生きておられました!触ってみると‥アツっ!かなり高温の湯があちらこちらから流れ出ています。そして流れ出た湯はどうなるかというと‥。

ご覧の通り、ひろぉい湯船というか湯水たまり(本流とは別のたまり水エリア)にとうとうと流れ込んでおります!手を入れてみると、「上熱下冷」という感じでしょうか。まぁ下流側をせき止めてかき混ぜればしばらくは何とかなるような感じです。‥と、ここで豪雨&強風襲来!

ものすごい風(雨と一緒に)が吹きつけてきます。思わず近くの大岩に避難。しかし河原のど真ん中にあるこの岩も、たぶん斜面の上の方から崩落して落ちてきたんだろうなぁという感じの岩で、「こりゃこんなのが落ちてきたらどうあがいても逃げられずに死ぬわ」と思わせるに十分な臨場的緊張感でした(笑)。もちろん雨風は防いでくれたけれど、だぁれもいない河原の岩陰に隠れて「ゴォォーっ(風雨と川音ミックス)」という轟音を聞いていると、「俺っていったい何やってるんでしょ‥」という気分にはさせられますね。

そうこうしているうちにまた雨風がやんできたので(ホントにこの日は天気が安定していなかったんです)、よしこの機会を逃すまい!いざ入浴モード開始!(何だかんだ言ってやる気満々)。



入浴場所として、湯が川となって流れ込むあたりを決定!ちなみに避難した大岩とは上画像の真ん中のやつ。
遠くから撮ってはいますが、あの岩とて実際はTakemaの身長(170cm)くらいの高さあり。規模がすごいでしょ。

小雨は降っているけれど、一気にマッパーになって例の「上熱下冷」湯船にドボン!‥いやぁ、気持ちいいやら忙しいやら(by 撹拌タイム)というところでしたわ。



やっぱりきちんと囲って湯温の安定を図るべきでした。実際にはそんな余裕がなかったけど(笑)。

後になって思えば、先人の知恵(なぜあそこの砂地に独立湯船@藻が生えてたけれど)を生かすべきだったかなぁと思います。あの湯船は湯温も安定していたしなぁ。

しかし、しつこいようですがここは「普通の人」が「普通」の気持ちで行くべき場所ではないような気がします。往復の危険もありますし、自分としても何だか達成感より申し訳ない感というか「自分って何やってるんだろう?」というような微妙な気持ちがわいてきました。少なくとも往復路の険しさを考えると基本的にはお勧めできませんな。

さて、このあとはオリンピック道路経由で一気に長野側に戻り、そこからまた一気に千葉まで帰ってきました。いやぁ高速代だけでも高い高い!んでもって天気は悪い悪い!でも、この日トータルの個人的充実度は結構高かったかも。



ちなみに翌週、似たようなことを会津にてやってきました。全然懲りてなかったのね(笑)。

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