【2016/3 南相馬〜釜石+栗駒・東鳴子】

− その3 超限定の高級丼に舌鼓のあと、閖上地区へ −



さて仙台空港で高速を下り、しばしR4(R6は岩沼までで終了)を走ります。パチンコ屋の立体駐車場に「災害時避難場所」と常時掲示されているのが印象的です(左上画像マウスオン)。そうだよなぁ、普段からその掲示を見慣れているのといないのとではいざというときの行動が大きく変わってくるだろうし‥。

そんなわけでやって来たのは「閖上さいかい市場」。海沿いの閖上地区で営業していた店舗が集まってできた復興商店街です。もっとも三陸とは違いここは仙台エリアですからすぐお隣にはイオンモールなどもあります。単にイオンに対抗するのもちょっとということで、入居している店舗は食料品店(お米とか)や酒屋さん、そして比較的飲食店が多いようです。そしてわれわれが目指したのは‥「漁亭(りょうてい) 浜や」さんでありました。



いわゆる海鮮系のお店ですが、このお店の周辺だけは常に席待ちの人で賑わっており人気店であることがうかがえます。実はこの日のわれわれですが、しばらく前にこのお店のあるメニューの「予約」を完了済みでした。席待ちのリストに名前を書く時、店員さんに「あ、予約を入れていたTakemaです」と申し上げると、「あ、ではどうぞ中へお入り下さい」と、先客さんより先に案内されてしまいました。でも時間の指定や座席の予約はしていなかったので‥ナンダカモウシワケナイ(苦笑)。

さて、到着と同時に厨房に注文が告げられました。



そう、われわれが狙っていたのは「赤貝丼」。赤貝といえば寿司ネタとしても高級系でありますが、お店情報によると市場に流通している赤貝の9割は輸入品国内産は1割のみしかも夏場に千葉の九十九里周辺などで採れる赤貝は「バチ赤」という別種のものだそうなのです。

ここ閖上沖で採れる赤貝は「本玉」と呼ばれるそうで、ものすごく希少で一般の消費者向けにはほとんど出回りません。以前オバマ大統領が日本を訪問した際、安倍総理と銀座の「すきやばし次郎」で寿司ディナーを楽しんだということがありましたよね。あのお店で提供される赤貝はここ閖上産ということで、もしかしてオバマ大統領も口にしたかも?(未確認)。まぁいずれにせよ「幻の高級食材」であることは容易に想像できます。

ちなみに水揚げされた閖上本玉赤貝のほぼ全量がそのまま築地に行ってしまうのだそうで、地元の人にとっても幻?いやいやごく一部だけがごく限られたお店で提供されるのだそうで、この「漁亭 浜や」さんはそのうちの1店というわけです。

しかも‥「1日限定5食、海が荒れたら入荷なしでキャンセルね」というこれまた超限定!というわけで、連休の中日ということで迂闊な時間に行くと売り切れ必至だろうと考え、なんと約2週間前に予約を入れていたというわけなのです。幸いちゃんと入荷していたようで‥。



ちなみにお値段もなかなかのように思われるかもしれませんが、仮に東京で閖上赤貝のにぎりを食べるとすると、何と「一貫2,000円もする」というんですね(名取市観光協会による情報)。当然そのお寿司屋さんは高級店でしょうからさもありなんというところです(たぶん死ぬまで行くことはないでしょうが)。

そんなご当地本玉赤貝を贅沢にも8つ+ヒモ+何と肝までもたっぷり載せた赤貝丼が2,680円(あら汁+香の物付き)とはまさに地元ならではの破格値です!ちなみに、こちらのお店で赤貝のにぎり2貫 or 赤貝刺身*2を頼んでもそれぞれ900円というお値段です。1貫450円というわけですからねぇ。

ただし、如何に地元ではあっても築地直送品と仕入れ値が極端に違うわけではありません。そこで浜やさんでは「わけあり品=貝の部分が割れたり欠けたりして通常の値が付けられないもの」を購入し、それこそ産地直近ですから味そのものが変わらない新鮮品だけを使ってこの丼を提供しているというわけです(浜やさんがえらいと思うのは、このことをちゃんと公表しているというところです)

おっと、そうこうしているうちに‥ご本尊がやって来たみたいです!





ちなみに黒く見えているのが肝で、これは熱を通しているのだとか。この脇にあら汁とかもありますがもうそんなのはこの際どうでもいい!とにかくこの目の前のピンクオレンジのでんでろわらわらの不定形物体にわしづかみの興味津々爆裂火口から硫化水素泉絶賛湧き出し中なのでありますよ!(意味不明)。



プリプリとほろほろ、さらにコリコリのトリプルコンビネーションであるところに、これまた醤油をちょっと付けると実の甘みが増幅されて「もうこりゃタマランチ会長!(古い)」というところです。そうかぁ、世の勝ち組といわれる方々は普段からこんなの食べてるんだ!(そうじゃない)。ん?じゃわれわれも本日から勝ち組の仲間入りってこと!?(だからそうじゃないって(苦笑))。ちなみに右上画像の赤貝はちょっと形が崩れちゃってますが、もっと形がよくて大きいのもあったのにどうしてこの1枚しか写真を撮らなかったのか!(大後悔時代)。

とにかく肝などいろいろな部位も含めて赤貝がまるごと8個も入っているので、食べているうちに「あれー、肝心の赤貝が減っちゃって酢飯ばっかりになっちゃったよー」などと嘆く必要もありません!完食の最後にいたるまで酢飯は常に赤貝とともにあります!(笑)。

なお、「いくら美味しくても赤貝だけじゃねー‥」とお考えの、神(本玉)をも恐れぬ諸兄には(笑)、他の海鮮丼もいかがでしょう。閖浜丼(1,300円)には少なくとも1個分、閖上三色丼(2,300円)のうち一色は赤貝(複数)ですし、海鮮チラシ丼(2,380円)では12種の新鮮ネタの1つが赤貝です(いずれも料理写真を見ただけなので注文時に確認してください)。なお夏は本玉赤貝の禁漁時期ですので、夏休みに行こうと思ったあなた、早くも残念賞です(笑)。



食後は商店街をお散歩‥と、プレハブの商店街に何と杉玉が。ということはここはただの酒屋さんではなく‥はいご名答、造り酒屋の佐々木酒造さんでありました。「新酒できました。」のシンプルな掲示に何だかほっこりというわけで、ここでお酒を買うことにいたしましょう!

聞けば閖上地区にあった蔵は使い物にならなくなり、今はプレハブの仮設工場で酒造りを続けておられるのだとか。すごい‥。なお右下画像の「閖(ゆり)」は震災後の新たな銘柄のようです。



というわけで、試飲係のおしんこどん(くそー)とともに品定め開始です。とはいえ、その昔「東西の地酒を楽しむ会」正会員であったTakemaですから、日本酒の匂いを嗅げば何となくその味わいも想像できますからね(それなのに普段飲んでいるのは芋焼酎)。

しかしここで問題が。おしんこどんの好みは基本的にどっしりとした味わいの辛口、Takemaは香り吟醸というかライトボディ系が好みなんですね。となればどうする‥どっちの好みに合わせて‥



東日本大震災後の自分にできることとして被災地のモノを積極的に買う、そしてわずかながらでも地元経済に貢献することをTakema是としていますからこれも当然のことです(エラソだな)。でも、いくら防潮堤を立派に再整備したところで地元の経済が回らなければ地域の復興はなりませんからね。

数日後に訪問する(した)女川町などは町の顔となる駅(温泉付き!)と商店街整備を先回しにしたという点でかなり成功した例ではないかと素人ながらに思います。だって「復興の先頭を行く被災地」として、ももクロは来るわ安倍首相は来るわ、女川さいがいFMの閉局に合わせて桑田佳祐がサプライズで来てライブするわ、はたまた天皇皇后両陛下までも「ダンボルギーニをご見学」なさった女川です。地域のものすごい宣伝になったことでしょう。

三陸沿岸地域の情報をSNS経由で日々受信しているつもりのTakemaですが、あまり日常的には情報が入ってこない自治体のエリアもあります。是非是非地域発のリアルタイム情報を発信してほしいです。そうしたらすぐ行きますから!(笑)。



さらに別のお店‥確か「マルタ水産」さんで乾物を購入し(写真撮らなかったのは残念)、商店街をさらに歩いていくと、あちこちに「閖上の今昔」を伝える掲示があるんですよね。これはいいなぁ。震災後初めてここを訪れる人たちには地域の歴史を、そして地元の方々には懐かしい閖上の姿を思い起こさせる端緒となるわけですからね(それにしても昭和15年から人間ピラミッドってやっていたのね。でもちゃんと手前にマットは置かれているなぁ)。

ただ、もっと時代バラエティに富んだ画像も見てみたいなと思ったのは事実です。昭和40-平成10年代の「普段の閖上」も見たいと思いましたので。もし空きスペースがあるのなら(会議室とかもあるようなので)、時代それぞれの写真をタイムライン方式で常設展示していただきたい!それも名取市役所とかじゃなくて閖上地区のメイプル館等に!リアル感がまるで違うはずですから。



盛り土によるかさ上げが始まっている本家の閖上地区。広い平地ですがここには津波襲来前には、5,000人を超える方々が住んでおられたそうです。しかし名取市で地震および津波で亡くなられたのは1,000人以上、そしてその多くはここ閖上地区だったそうで‥。その詳細についてはこちらが詳しいですから是非御覧下さい。

そもそもさっきまで本玉赤貝で浮かれていた自分ですが、ずっとマスコミ情報だけで知ったつもりになっていたここ閖上‥。



高台のない閖上地区にあってほぼ唯一の「高台」にあった閖上湊神社。標高6.3mの築山ですが、この頂上のさらに2m上まで津波が押し寄せたそうです。でも南相馬の一本松と違い境内の松が元気なのは、高台ゆえ塩分がさっさと抜けた立地にもあるのでしょうか。



お詣りを済ませたあとで周辺を見渡します。広大な空き地ばかりが広がっていますが、よく見ると道路が細かく縦横に走っているのがわかり、多くの人々の営みがここにあったことが想像されます。合掌。

しかし一方で、この地で再び仕事を再興する動きも見られます。右上画像の奥に見えている白い建物、水産加工のマルタ水産の建物ですが、何とこの翌日の3/21に完工式が執り行われたそうです。今後の閖上に人が住むことはできなくても、こうやって少しずつ前に進んでいるのですね。

津波襲来後の釜石だったかで、中国からの研修生を無事に避難させた経営者が「5年経ったら戻ってきてくれ、そして復興をなしえた釜石の姿を見てほしい」という旨の発言をなさったというニュースを記憶していますが、5年はともかくとしても、津波で被災した各地がそれぞれの歩みを進めているのは確かなこと。これからも応援していますよ!



さてこの日、南相馬の一本松と赤貝丼を優先した関係で間に合わなかったのが「閖上の朝市」でありました。毎週の日曜日に盛大に開かれているというこの定期市ですが、お昼には終了してしまうので、すでにお昼をとうに回ったこの時間、ほとんどの店は閉店済みまたは絶賛後片付け中でありました。

その奥にはかろうじて活気ある場所としてカナダ国の支援によって建てられたメイプル館が(右上画像マウスオン)。おみやげ屋さんとフードコートスタイルのお食事処があり、まだそこそこ賑わっておりました。ちなみにここにも「漁亭 浜や」さんの分店があります(ただしどうやらこちらでは赤貝丼の提供がないらしかったので‥)。



そんなわけでかの神社を遠望しながら閖上をあとにします。こちらでも盛り土作業が行われていました。あと数年後、ここ閖上に限らず盛り土された各被災地がどんなふうに変貌していくのかを見るのが楽しみです。

さてこのあとは再び高速に乗り一気に内陸、山の方へと向かいます。

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