【2016/3 南相馬〜釜石+栗駒・東鳴子】

− その6 漁船に乗せていただき女川の海へ −



釣り船でもない、「専業の漁船」に乗せていただくのは初めてでした。

さて約束の10時を少し回ったところで港に到着し、迎えに来ていただきました。漁船の船頭さんはAさん(仮名)。偶然なことから知り合った方なのですが、Takemaの「船に乗せていただけないでしょうか?」とのわがままなお願いに「どうぞお越し下さい!」とのご快諾をいただき、この日の乗船となったわけなのです。

なお事前にTakema夫婦の個人情報は全てお伝えしてありました(何かあったときのため)。ただしAさんはいわゆる「体験乗船」を受け付けている漁師さんではありません。当然乗り合いの釣り船のような乗船者保険に加入しているわけでもないでしょうから、万が一の場合のリスクを承知の上でわれわれの乗船を引き受けてくださったのだと思います。ありがとうございます!(激感謝)。



Aさんのご家族は女川の沖合にある出島(いずしま)をベースに栽培漁業(ホタテ養殖ほか)を営んでおられたそうですが、かの津波で島の自宅は全壊し、現在は石巻市内にお住まいなのだそうです。でもご家族が皆さん無事でよかった‥。

さてそんなわけでわれわれだけが乗船すれば準備完了ですのですぐに出港なのですが、ここで大失敗!



途中休憩なしでやって来たので肝心なことを‥というわけでその旨を申し出ると、「それでは、出島に行けばトイレがありますからそこで」と、予定になかった出島着岸を立案して下さいました。さっそくご面倒をおかけしまして申しわけありません。



そんなわけで出港しましたが、なぜかAさんは操舵室にいない?実は有線で操舵のコントローラーが接続されており、甲板にいながら操船できる仕様だったのです。養殖のロープを上げ下げしながら同時に船の位置をコントロールしなければならないわけで、なるほどなぁとさっそく感動(笑)。



そんなわけで出島に寄港していただき、フェリー待合所のトイレを利用させてもらった上で再出港しました。なおここまでの動画はこちら。いやぁ、ホントに緊張&感動していました漁船乗船!



ただ、ここ出島も離島ゆえいろいろな事情があり、震災前は500人くらいが住んでおられたそうですが「今戻ってきたのは100人くらい」なのだそうです。津波被災地の例に漏れずここ出島でもほとんどの家屋は海沿いにずらりと並んでいたそうで、それらの自宅が根こそぎ流されてしまえば(人的被害は少なかったそうですが)、「この島で生活の拠点を再建する」余裕は低かったということでしょう。住民の皆さんの多くが漁業関係者であるとすれば「船さえ確保できれば」島で生活を再建しなければならない絶対的な理由はありません(ただしコミュニティの問題は当然別です=重要)。



でもそうなると、この出島と「本土」を結ぶ橋を建設することの効果はどうなのか。まず第一に、在住者の利便が間違いなくよくなることは間違いありません。24時間自由に行き来できるということはたとえば急病人の搬送も常時可能ということですから、いざという時の安心にもつながります。医療・福祉面、さらには流通や生活上の利便性向上は計り知れません。

ただ、今現在島外で暮らしておられる方のほとんどは、津波により自宅等島内における拠点を失っておられると拝察します。そして震災から5年以上が経ち、島を離れた方々が今や島の外で生活のベースを築いておられることを考えると‥



もっとも、新たな産業として「観光振興」に力を入れるという手は大いにあります。これまで出島を訪れていた島外からの観光客といえば(想像ですが)釣り客と離島マニアくらいだったのではないかと思います。でも橋が架かれば車で簡単に島を訪れられるようになり、そこに一定の「これまでなかった需要」が喚起されるであろうことは十分に予想できます。

自分が旅行好きだから言うわけではありませんが、橋が架かっていれば「何があるんだろう、ちょっと行ってみようか」と考える観光客は確実にいるはずです(笑)。そもそも三陸沿岸には「そのまま車で渡れる離島」が皆無です(気仙沼大島には架橋計画があるそうですが)。その意味でも他にはない特徴的な島になる可能性があります。そもそもその橋自体が1つの観光名所になるわけですから。

架橋が実現するのであれば、これまでとは違った準備も必要になるというわけです。出島関係者の皆さん、そのあたりの準備を着実にお願いしたいなと思う次第です。



そんなわけでのっけからとんだ寄り道をお願いしてしまいましたが、いよいよ「養殖の現場を見学」スタート!出島周辺には多くの小島がありますが、これらには全てに名前が付けられているそうです(地元の漁業者ならわかる便宜名ということかな?)。それはもちろん、養殖生け簀やロープの場所を説明するときにその島がまさにランドマークとなってくれるからということのようです。たとえばどんな名前なのか具体的に聞いておけばよかった(時既遅)。

この海域にはそれこそさまざまなフロート(浮き)が設置されていますが、漁業者の方々には当然「これが誰の持ち物なのか」わかっておられるとしても、完全素人門外漢たるわれわれには何が何だかわかりません。Aさんの説明に「へーへー、ほぅほぅ」と相づちを打つのが精一杯です(笑)。



向こうのほうをそこそこ大きめの漁船が元気よく沖に出ていきました。照明灯らしきモノがずらりと並んでいるようですから養殖用の船というわけではなさそうです。こちらの船はあの船ほど大きくないですが、それでも事前に予想していたサイズよりはずっと大きいものでした。自分としては勝手にいわゆる「サッパ船」サイズを想像していましたので‥(Aさん、ごめんなさい)。

さて、まず最初にホタテの養殖現場へと向かいました。



船を操船しながら(Aさんいわく、「風があるのでどんどん流されちゃいます。だから船の位置を一定にしておく必要があるのです」)整然とホタテのぶら下がるメインロープを引っかけ、ウインチで引き上げます。すると‥おおお、上がってきましたねホタテがぶら下げられた紐が!



このようなステンレス製の器具にロープを引っかけて持ち上げます。たぶんすごい荷重がかかっているんだろうなと想像。



Takema、アドレナリン出まくりでパチリパチリとやってます(笑)。

で、この日は水揚げの予定はなかったはずなのですが、「こうやってやるんですよ」と、その作業を見せていただきました。

しかし、海から上がってきたばかりのホタテ貝は、何だか自分たち(食べる側の人)が知っている外形とはちょっと違ったんです。それは‥



左上画像、たぶんここにホタテ貝が10枚近くあるんですがおわかりですか?(笑)。実は養殖貝の常として、殻にいろんな別の生き物が付着しちゃうというわけです。ホタテも自然界では「噴射ムーブ!」等でどんどん移動する貝なのだそうですが、養殖の場合ムーブされては商売になりませんから当然固定されています。だからその殻に海藻やら何やらが付着してしまうのはある種やむを得ないわけです。付着生物からすれば「お、安定した場所発見!よっしゃここに定住しよう!」と考えるわけですし(笑)。

しかしこのままでは市場に出せるはずもありません。そこでAさんの船にも当然のごとく装備されていたのが「殻表面の付着物を除去する装置(右上画像)」でありました。この威力たるやすごいです。というわけで、ロープ引き上げから殻のお掃除完了までを動画で御覧下さいませ。







なおAさんによると、近年は外来種の変なブヨブヨしたものが多く付着するようになったのだとか(動画の中で水を噴射しているのがそれです)。遠洋航海船のバラスト水の問題はここ女川出島の海にも影響を及ぼしているというわけです。ただしこれはまず間違いなく「お互いさま」であることを忘れてはなりませんが。内湾かつとてつもない外航船が通行する東京湾はいったいどんなことになっているのでしょうか?

まぁそれでも外来生物を含む付着生物がホタテ貝そのもののエキスを吸っているというわけではありませんのでとりあえず直接の影響はないのかと(ホタテが吸収するはずだった養分を取られてしまうという間接的な影響はあるのかもしれませんが)。いやぁ、それにしてもすっかりキレイになることだこと!(出荷の際は念のためこの機械に2回通すのだとか)。

それでは水揚げされた取れたてのホタテを観察してみましょう。ちなみに別の紐から、いわゆる「2年もの」も上げていただきましたのでまずはその比較から。



左上画像、どちらが2年ものだかは一目瞭然ですね。ちなみに動画にもあったように1年ものとてまだここ女川の海では3-4ヵ月でここまで大きく育っているわけで、効率を考えれば数ヶ月で出荷するというのが一番であることはいうまでもありません。1年ものでも十分に大きいし。おっとAさんがここで何と!





いやっほーい!1年貝(とはいえしっかり大きいですよ)*2と2年貝のコラボです♪。ちなみに自分も知らなかったのですが明らかに色が違いますよね。その色違いの部分は生殖巣という部分です。ホタテは生まれたときは全てオスなのだそうですが、やがて性転換によりメスが生まれます(生殖巣が赤いのはメスなのだそうです)。ただし5月頃の繁殖期を終えるとこの色付きもなくなり雌雄の区別はぱっと見ではできなくなってしまうのだとか(勉強しました)。

で、このあとはまさかのまさかです!何とAさんから‥




(しかし素人ゆえ右上画像マウスオン画像のTakemaがあまりにアホ顔だったりすることはご容赦下さいませ)。

たったいま海から引き上げたばかりのホタテ、もちろんおいしくいただきました!ふだんお刺身で食べているホタテの貝柱はよくいえばトロリ感がありますが、一方で何となくつかみ所のない食感です。しかしこの獲れたてくんは貝柱の縦の繊維がしっかりしていて、はっきりとしたコシとプリプリ感あり!「うむ、わたしは今、女川の肉厚ホタテを食べているのだ!」とリアルに感動しました!

なお、2016/6に行う「Takemaオフキャンプ」では、いつもの牡蠣三昧のほかこの女川産お刺身ホタテ(もちろんむき身じゃありません)も登場します!Aさんからは「時期柄あまり大型ではないと思いますが‥」とのお言葉をいただいておりますが、コシプリ感は間違いなく感じてもらえるはず、乞うご期待!

さて、ホタテに舌鼓を打ったあとは港に戻り‥いやいや、まだ戻りません!もう1箇所、今度はまた違った養殖場へと向かいます。こっちはホタテじゃありません。さて何でしょう?というわけでこの続きは次ページにて!



1つの作業が終わるごとに甲板を水で洗い流します。清潔維持&事故防止のためかと。

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