さて、起き出したのはだいたい5:30頃だったでしょうか。日よけ窓を下ろしているので外の様子はわかりませんが、列車は随分と徐行している様子で、「なぁるほど、こうやってのんびり走っているうちに着々と遅れが増しているんだろうな」と勝手に納得。というのは、どうやらミャンマーの鉄道はやたらと遅延が多く、定時に着くことなどまずほとんどあり得ないという情報を聞いていたからです。この列車が今マンダレーまでどのくらいの距離にあるのかはわかりませんが、定刻ならあと1時間するかしないかで到着するはずです。でも、このスピードじゃどうせ無理そうだなぁ。

そんなことを考えつつ、上段のお坊様を座席に迎えるべくあたふたとベッドの撤収作業。んでもって鉄製の日よけ窓を開けて外が見えるように、よいしょっと。え、あれ、あれ、あれえっ!?



ありゃ水だらけ。

鉄路部分だけを残して、あとはどこもかしこも水、水、水。うはぁ、湖の上を走っているとは驚いたぁ。ここはトンレサップだったっけ?(そんなわけはない)‥と最初は寝起きのアタマで思ったのですが、湖にしては何だか変です。水面上にポツポツと緑のブッシュや竹で編まれた小屋が見えているのも変だし、そもそもここが湖ならば、線路の路盤をこんなに低い位置に設けるというのもおかしな話です。そして列車の徐行‥。

そう、これは「大洪水」そのもの。マンダレーに着いてから知ったのですが、実はこの時マンダレー周辺地域(市街地は問題なし)は大洪水に襲われており、多くの人々の家が水没して大変な事になっていたのです(その余波はこの日のTakemaの行動にも及んだのですが、まぁそれはこの後のページでじっくりとね)。実は線路そのものも結構キワドイ状態だったのね。知らぬが仏とはこのことだったかも知れない(笑)。

実際、家を失い、線路端で「生活」している家族も多く見られましたし(まだ寝ている人もいましたから間違いはないでしょう)、大きな集落全体がそのままベニスだかベネチア状態になってしまっているところもいくつか。うはぁ、大変だぁ。

それでも少しだけでも高くなっている場所は水没を免れており、そこには普段と変わらぬ家並み、そして人々の生活がありました。そんな朝の光景を横目にしながら、列車はやはりゆっくりと進みます。



列車が徐行しているのをいいことに、「ちゃっかり無賃乗車」の少年も多いようでした。

そうこうしているうちに列車はかなり大きな街に入ってきたようです。お隣の子供連れも大荷物をまとめ始めた頃、列車は大きい駅に到着したようです。時間はまだ6:30、定時ならマンダレー到着のはずですが、さっきまではあれだけ徐行していたし、そうでなくても途中でどれくらい遅れたのかもわかりません。というわけで「どうせまだ途中停車のどこかの駅だろう」とたかをくくり、またも朝食代わりのおつまみに手を伸ばし始めたその時、お隣のお母さんがTakemaに次のようなひとことを。

「え゛、ここってもうマンダレーなの?」‥驚いた、何とほぼ「定時到着」です。やってくれるぞダゴンマン号!ん?ということは、あの徐行も何もダイヤには織り込み済みだったってこと?何だかよくわからない部分もありますが、まぁ着いたという事実は窓の外を見れば明らかそのものです。しかし、まだ心と荷物の準備が全然終わっていなかったTakemaは、皆さんが降りた後もしばらく荷物のパッキングにいそしんだのでありました(笑)。

バックパックを背負ってホームに降り立つと、先ほどからずっと窓の外からこっちを覗いていた(覗いてただけじゃなくて「Taxi!」と叫んでいた)お兄ちゃんが「さぁ行こう!どこのホテルだ?」と声をかけてきます。う〜ん、まだタクシーを使うかどうかを決めたわけでもないし、えてしてこのパターンは結局高い料金をふっかけてくることが多いしなぁ。

でもその一方でこう思ったりもします。このお兄ちゃんのタクシーを使わないとしても、どうせ宿探しには何らかの交通手段を探さなきゃならないし、宿が決まったとしてそのあとまたサイカ(サイドカー付き自転車)とああだこうだ折衝するのも面倒だよなぁ。それに郊外となるとサイカじゃ絶対無理だし、そもそもマンダレー(及び周辺)をうろうろするのは今日一日のつもりだしなぁ‥等々。

というわけで、今日一日に関わる様々な行程シミュレーションやそれに付随する費用等を、明晰なる頭脳にて瞬時にぼんやりと休むに似たり系レベルで考慮した直後、タクシードライバーにとっては何とも「棚からぼた餅」に違いないオイシイ話を持ちかけたのはTakemaの方からでした。それは‥

よく東南アジアの有名観光地(特にタイ)などに降り立つと、タクシーの運ちゃんなどが「1日ツアーはどうだい?安くしとくよ!」などと言いながらどやどやとにじり寄って来ることがありますが、確かに近距離の利用客からちまちまと小銭を稼ぐよりも、1組の客で1度にまとまった料金を取れるからでしょうね(ついでに料金そのものをボッタクル輩も多いですが)。Takemaに声をかけて来た彼は「ホテルまでうちのタクシーを使ってくれ」という意味のことを言ってきましたが、Takemaが上の発言をした後は当然のごとく顔が思い切りほころびました。答えは当然、「もちろん!」ちなみに、彼が最初からその話を持ちかけてきていたら状況は変わっていたかも知れません。

まずはタクシーまで移動して、そこで具体的な折衝開始です。ん?何やら別のおっちゃんが話に入りこんできたぞ?



彼が、Takemaに「照準を合わせてきた」イェマイくんです。ちなみにこのミニタクシーのことを
地元では「レーベー」と呼ぶそうなので、以下レーベーに統一します。

よくよく確かめてみると、このイェマイくんは客引き兼ガイドで、ドライバーはこのおっちゃんなのだとか(だけど英語はおっちゃん=レイミーさんの方がよくできることが判明=あとで嬉しそうな写真が出てきます))。「2人1組かぁ、こりゃちょっと手ごわい相手=高くつくかもしれんぞ」と思いつつ、「ホテルまでの送迎+市内観光(王宮は行かないと決めていたのでマンダレーヒル周辺のみ)、午後はアマラプラやザガインに足を延ばして再びホテルまで、さらに翌朝4:30にホテルから駅への送りまで、ぜ〜んぶ徹底的に全て込みでいくらになるか?」の折衝です。一応折り合いがついた料金は、現地の人から言わせると(あとで聞いた)「けっこう高いよそれ!」というモノでしたが、まぁ初めて来る場所で相場がわからないし、彼らはなかなか面白かったし(これホント)、この時期他のタクシーが尻込みして行かないような場所(後述)までちゃんと行ってくれたし、今となっては「あの選択はこれでなかなかヨカッタのではないか」と思えます。

というわけで「MAZDA B600(見るからに懐かしい車です!)」のレーベー後部荷台座席に乗り込み、まずはホテルさがしに出発。「US$10以下で朝食込み、エアコン付き、シャワー付きでまぁまぁのホテル、出来れば歩いて近いところに屋台ではなく食堂があって冷えたビールが飲めること」という条件を出し、いくつか回ってもらうことにしたんですが、彼らの意見は最初から、

と終始一貫していました。「客を連れて行くとホテルからコミッションがもらえるから」というのがこの場合の「暗黙の常識」ですが、どんなホテルなんだ?「ET」って聞いて何だかいまだに地球外生物を連想してしまう心がどこかにあるからか、見る前から一抹の不安を感じてしまうTakemaでしたが、まぁホテルを見ていやならやめればいいんだし、「ほいじゃ、まずはETに行ってみましょ」と相成りました。

さていざ着いてみると、結構小綺麗なホテルです。各階ごとの道路側に広いユーティリティスペース(というか広場)&ミニベランダがあるのも気に入ったし(えてしてこういう場合、無駄なスペースを極力なくして客室にしてしまおうと考えるモノなんですけれどね)、部屋を見せてもらうと広さはまぁ普通サイズなれど清潔だし、エアコンは新品に近いし、窓は大きいし(景色もまぁまぁ)、ついでにリクエストしていなかったTVまで付いている!というわけで、「気に入りました!ここに泊まります!」

レセプションにいたのは中国系のおばちゃん(経営者の奥さんらしい)でしたが、これがまた「巧言令色鮮仁(こうげんれいしょくすくなしじん=うまいことばや表面を飾ったような見かけには実は真心が少ないものである」を謹厳に実践することを旨とするオリジナル中国おばちゃんとは大違いで、まぁにこやか和やかなこと(あーくどい文章だこと)。「困ったことがあったらすぐに従業員に言って下さいね」「ちょうど宿泊者用の朝食時間が始まったところですから、もし良かったら2Fの食堂へどうぞ」。うっはぁ、お心遣いいたみいります(笑)。いいかげんお腹減ってたんだ♪このページを作りながら当時の日記を見直しているんですが、彼女については「まるでイギリスの田舎のB&Bのおばちゃんみたい」などと書かれております(微笑)。



見かけは普通のビル型ホテルですが、正直言って居心地はかなり良かったです。
このあと田舎に行ってから戻ってきた時にも迷わず再宿泊しましたもん。
(右写真のマウスオン画像は「一人用ベランダ」。気分いい♪

というわけで、イェマイくんとレイミーさんにはしばらくのんびりしていてもらい(彼らとしても、もう今日一日の稼ぎは確定しているわけですから「しばらくのんびりしていて下さい!」は悪い話じゃないですよね(笑))、荷物を解き、顔を洗い、なぜかベッドの上で柔軟体操をこなし、TV番組を確認し(残念ながらNHK衛星は入らず。まぁ期待はしてませんでしたが)、そしてオレンジジュースとシリアルとパンとジャムとコーヒーとバナナの朝食を平らげ(満ちた♪)、再び部屋に戻ってヒミツの小部屋で一仕事して(そんなん書くなって)、身も心もさっぱり満ち足りたぁ。

というわけで、いよいよマンダレー市内にお出かけしましょ!

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