− その15 仙人谷ダムのおもしろ登山道経由で阿曽原へ −



はいはーい、この建物の中に「登山道」が続きまーす!(笑)。

さてそんなわけで仙人谷ダムまでやってきたわけですが、ダムの管理施設(鉄筋コンクリ)の屋上を登山道が通っていること自体珍しいのに、ここからはさらに面白いところを通っていきます。それは、右上画像にマウスオンしてもらえばわかる通り「ここから登山道は何と建物内に入る」のであります(笑)。それにしても、「小動物が進入します」とは何だか可愛いぞ。

で、言われたとおりにちゃんどドアを閉めて数歩進んでいくと、ちゃんと地図が出ていました。

「旧日電歩道」。日電とは戦前に存在した電力会社なのですが、ここ黒部川上流部は早くから水力発電の適地として目が付けられ、1940年に完成したここ仙人谷ダムももともとは日本電力の工事によるものでした。そしてここから欅平までのいわゆる「水平歩道」は、それよりも20年も前の大正9年(1920年)にすでに開通していたというのですから驚きです。

ここ仙人谷ダムは土木学会の「近代土木遺産」、また経済産業省の「近代化産業遺産」にも指定されています(右上画像マウスオン)。このダムの建設に至る経緯を考えればそれはまさに当然のことなのです(すぐ後で詳しく書きます)。

さてここからは建物に直結しているトンネル内を歩いていきます。ひんやりしていてとっても気持ちいい!照明も点いているのでヘッドランプの必要はありません。

この道はいわゆる冬季歩道。冬の黒部谷は雪崩の巣窟ですから雪道を歩けるはずもなく、しかし冬だろうが何だろうが発電は1年を通して毎日24時間行われています。万が一にもトラブルによる送電ストップは許されず常に作業員が行き来できる通路が必要、そのためこのようなトンネル歩道が整備されているというわけです。

黒部峡谷鉄道に乗ったことがあれば気付いた方も多いと思いますが、あの鉄道にずっと付き添うような形で「冬季歩道」が通っています。宇奈月−欅平間は冬期運休ですが、それでも途中には小屋平ダム等の発電施設がありますし、また欅平の地下発電施設への行き来や物資の補給も含め、あの歩道は今でも冬の重要な「街道」として機能しているそうなのです。

さて、歩くことしばしで「踏切」に到着です!

おおー欅平到着っ、もう歩かなくていい!‥なんて事はもちろんなくて、これは欅平と黒四ダムを結ぶ「関西電力黒部専用鉄道」であります。右上画像は仙人谷ダムから見た橋の外観ですが、今ちょうどその真横まで歩いてきたというわけです。ここ仙人谷ダムには管理事務所のみならず関西電力の宿谷「人見寮」などがあり人の出入りがあることから、橋部分がホームとして利用されている様子。左上画像の橋上左側には黄色いラインが見えていますが「黄色い線の外側に下がってお待ち下さい」ということなのでしょう。

列車は毎日何本か運行されているようですがもちろんダム関係者専用で、「席空いてるなら乗せてよ」とお願いしても腰をくねらせて甘えてみてもダメなものはダメですので潔く諦めましょう(笑)。

「踏切」にあたる横断箇所には「電車に注意」の警告表示と、すぐそばには何と簡易ベンチに灰皿、空き缶入れまで設置されていました。もっとも自販機まで設置されているはずはなく、この空き缶入れは工事関係者が持ち込んだ(または人見寮で買った)飲みもの缶はここで捨てなさいということなのでしょうか。しかし設置責任者である「駅長」さんの姿はどこにも見ることが出来ませんでした(笑)。

それにしても「電車に注意」とは?宇奈月から欅平までの黒部峡谷鉄道は確かに電化されていますが、この専用鉄道には架線も第三軌条(銀座線とか御堂筋線とかの集電レール)も見あたりません。ディーゼル機関車による運行じゃないの?と思ってwikiってみたら‥ははぁなるほど!

「蓄電池車=電車」、うーんマンダム!なるほどねぇその通りヤラレタ!

なおここ仙人谷ダムから、われわれが本日水平歩道経由で目指す阿曽原までの区間のトンネル部分は、知っている人には有名な「高熱隧道区間」なのであります。仙人谷ダムが1940年に竣工したということは上の方で書きましたが、その完成のためには宇奈月から運び入れる物資輸送路としてのこの鉄路が不可欠だったわけです。

しかし雪崩の大巣窟エリアである黒部谷ゆえ、ほぼ全面的に地下トンネルを掘削することが決定され(標高差200mの地下エレベーターや数千mのトンネル‥戦前の話ですよ)、工事は始まりました。しかし、

「準戦時」の国策であるということから、とてつもない数の死傷者を出しながらもこの工事は最後まで進められ完工したがゆえに仙人谷ダムを造ることができたというわけです。詳しくは吉村昭著の「高熱隧道」(新潮文庫)をお読み下さい。わたしは山岳部出身ゆえ高校生の時にはすでに読破していましたがこの度久々に再読!
なおAmazonのこの本の読者レビューに、「平成でもこの時の掘削と基本作業はほとんど同じでした」という旨の書き込みを見つけました。詳しくはこちら(Amazonで買うか否かはご判断にお任せしますが)。
あまりネタばらしするのもナニだと思いますが、壮絶な現場をマネジメントせざるを得ない現場、戦前にもきちんと機能していた行政指導、そして今の政治にいい意味で存在しない「絶対的圧力」、いろいろな方面に思いをいたす「小説」ですので、是非ご一読をおすすめします。

さていつもの通り説明が長くなりましたが、ここはその高熱隧道の一方の出口でもあります。となればこの本線トンネルからも熱気がモウモウしているのではないかと思っていたのですが‥



こちら側が風上だったのか先ほどの冬季歩道の冷気が出てきている感じで、何だか雰囲気ないなー(左上画像を見るとちょっと暑そうにも見えますが、フラッシュを焚いた関係で赤っぽく見えているだけで実際はひんやり)。

しかし、そこから引き続き歩道を歩いていくうちに本線から分岐してきた支線にぶつかりました(右上画像)。その内部から押し寄せてくるのは‥

おそらくは、仙人谷ダム側から吹き込む風には長距離トンネルを吹き抜け通すまでの圧力が無く、その結果別角度に伸びる支線経由でトンネル内の熱気が排出されているのでしょう。本当に「熱い」エリアはまだまだ奥の方なのでしょうが、この日さんざんに太陽にあぶられつつ下ってきたTakemaであっても「ちょっとこの先まで進んで奥を見てみようかな」とは思いませんでした(ちなみに許可なしでこのトンネルを進んではいけません=あたりまえ)。
ここからは再び冬季歩道を進むわけですが、厳密にいえばこの区間は冬季歩道ではなく春夏秋冬「人見寮からダム管理施設への通勤路」としても使われているんじゃないかと思います。



素掘りのままのトンネルもありましたが、歩道を確保するために鉄骨で全面落盤を防止しているようです。ひんやり。

そんなこんなで歩いていくうちに、いよいよわれわれが「涼しい地下空間からあのくそ暑い地上登山道へと追い出される」時がやって来たようです(笑)。

この扉を出てしまうと涼しく心地よいエリアは終了、再び夏の日射しよこんにちはヨロシクということになるわけです。なお出入口の扉には「小動物」ではなく「クマの進入防止のため」と書かれていましたがさもありなん、

ただし新陳代謝をとことん落とすことにより可能となる「冬眠」をしないとなれば、そのぶんエネルギー補給が必要‥でも山は雪、でも直近にあるのは‥ん?冬でも人々が暮らしている‥




(クマさんがここの食堂でトレイを手にして並んでいたりしたら笑える‥いや笑えないか。)

こんな黒部の奥山に、いやはやすごい施設があるんですね。その昔高圧電線の冬期維持管理作業場面を写した電力会社のCMを見た記憶がありますが、ここで「雪の時期を暮らす」人々は大変なんだろうなぁ。ちなみにこの施設内には間違いなく温泉施設があるようですが、どうせ断られるのがオチなのでアタックはしませんでした(笑)。

ここでふと。こんな深い谷筋とはいえこれだけ立派な施設があるのなら、保安上のことを考えてもここでは携帯が通じるのでは?というわけで取り出したるはドコモのガラケー!電源を入れてみると‥あちゃー圏外(笑)。どこかのサイトで「auが通じる」とか何とか読んだ気がするんで今auのサービスエリアマップを確認してみましたが、やはりそんなこともないようですね。やわらか銀行は言わずもがなというところでしょう(笑)。

人見寮周辺は工事中で重機も入ってきており(これ、分解して運んできてこっちで組み立てなおしたんだろうか?)、何だかもう下界に下りちゃった感がなきにしもあらずですが、まだここから歩くんですよ、まずは水平歩道まで130mの登りです!

登山道脇の斜面にある岩々は、この真下の人見寮その他に落下しないようワイヤーで厳重にフィックスされていますが、小物あたりはやっぱり落下しても不思議はないだろうなぁ。それにしてもはーシンドとつぶやきつつ登っていくと、どうやら水平歩道に出たようです。よーし、これで今日はもう登りはないぞ!



水平歩道に出たところの大岩はワイヤーロープで羽交い締めにされてました(左上画像)。

さてここからは平坦な道なので楽勝‥と思うのは、この道についてあまりご存じない方でしょう。ここから欅平の直上まで約13km、標高950m付近を忠実に巻いていくこの道は‥

左上画像もそんな感じですが、途中には岩壁を強引にくりぬいた道が延々と続く区間も多く存在し、生意気な高所恐怖症人間がいたら絶対連れて来たくなるかも(何のこっちゃ)。とはいえ、この日の目的地である阿曽原小屋までの区間は斜面の傾斜も緩くてそれほどの危険はなし、問題は明日の阿曽原−欅平区間だよなぁ(笑)。ひたすら蜀の桟道モードらしいぞ、歩道から黒部川本流までの高度差でいえばたぶん明日の方がはるかに上だろうし!

さて途中には、登山道なのにトンネルもあったりします。この水平歩道は黒部ダム設置の経緯等いろいろあって関西電力に維持管理の義務がありますが、急峻すぎて危険な区間などは「メンテ不要で安全なトンネルにしちゃえ」ということだったのでしょう。しかし重機を持ち込めるような場所ではありませんからこの掘削作業もかなり大変だったんでしょうねぇ(と、往時を偲ぶふり)。おしんこどんはトンネル内ではしゃいでます(笑)(右上画像マウスオン)。

阿曽原小屋への分岐からは谷に向かって一気に下り、刈り払われた草地にワラビの新芽を見つけて「収穫の欲望」がちらりと出かかったところで到着。よかった欲望を抑え切れたぞ(小屋の真ん前だもんね)。



この小屋はシーズン終了後解体されるため簡素なプレハブ造りですが、必要にして十分。

さーて、それではお約束の‥へへへのへ。まずはその1、ビールタイムに決まってます!

し、しかも何とここ阿曽原小屋には自販機が!少ない人数で小屋をまかなっていることもあり省力化に一役も二役も買っているのでしょうが、さすが高熱隧道直結の支線があるためにこんなのも運べちゃうんですね。ちなみにチェックイン時にビールを買いますかと聞かれたので「はいもちろん」と答えるとさっそく両替してくれました。何でも小屋主のSさんによると、汗の水分で湿ったお札を投入されると途中で詰まっちゃうんだとか。なるほどねぇ。ところでこの500円玉たちは、1シーズンにいったい何回自販機を出たり入ったりするんだろう(笑)。

顔も洗い、飲むモノも飲んだところでそろそろ部屋へと向かいます。ちなみにこの日は「1部屋5-6人」ということでひろびろ使えそうです。ホント、秋の紅葉時を除いてはほとんどガラガラなのでしょう(その代わり紅葉時の週末は地獄絵図らしい)。



奥まで真っ直ぐ続く廊下沿いに同じ造りの大部屋が並びます。この日はかんかん照りだったので午後の室内は暑かった。



天井は梁がむき出しで、夕立の時などは豪快な音がしそう。一応12人部屋のようですが混むときは軽く倍の人数が寝るのだとか。

と、ここで欅平から来られたソロの男性がチェックイン。われわれは入口近くにいたので、ご主人とのやり取りは自然と聞こえていたのですが‥え、ええっ!

ふとした拍子にするりと手をすり抜けたデジカメが、はるかなる黒部川本流に向かってまっさかさまだったそうで‥。細かな場所については聞こえませんでしたが(しっかり聞き耳をたてているのがバレバレ)、Sさんも「あそこか、それじゃ無理だね」とあっさり言い放ったところを見るに「大太鼓」とかかな?

さてそれでは、お楽しみその2です。小屋の看板にもありましたがこちらは温泉付きの小屋なのでありますから行かずばなるまい行かなくてどうするなのです。特にこの日はひたすら太陽にあぶられて大汗かいてますからねー。

露天風呂は小屋下のテント場を通ってさらに下った先にあるので、行きはともかく帰りはまた汗をかきそうだな(汗)。ちなみに1時間おきに男性女性の利用時間が入れ替わります(小屋の受付に掲示されている=右上画像マウスオン)。この時はちょうど女性タイムだったのでおしんこどんが先に行ってきました。しばらくして戻ってくると‥

そんなわけで男性タイムになったのを確認していざ出陣!ずんずん下っていった先には‥



源泉は奥のトンネルから導かれていますが、さすが高熱隧道につながる支線トンネルゆえ真夏だというのに湯気を排していますね。ちなみに単純硫黄泉で源泉温度は98度とか。トンネル内部については次のページ(翌朝)で紹介しますが、大分ぬるくなった湯が注がれているみたい。それでも熱いので加水されていますけれどね。



全景画像だとあまり広くないようにも見えますが、実際はかなり大きいです。10人入ってもまだ全然余裕。

温泉をタンノーして小屋まで上がってきたところで、先ほどのカメラを落としてしまった男性としばし歓談。温泉ファンの方で、カメラはともかくメモリに入っていたデータロストが痛い、もう入れない湯画像とかもたくさん入っていたそうで‥ううーん確かにそれは痛い!(お気持ちがすごくよくわかりました=一応同好の士なので)。

このあとはTakemaカメラをお貸しして、ここ阿曽原の湯画像を存分に撮影していただき、その画像はあとでネット経由でお渡しするということにしました。それくらいしかできることはありませんでしたが‥。ちなみに拙サイトもご覧いただいた記憶があるとのことでますますウレシイ!(単純でゴメンナサイ)。拙サイトも少しは温泉ファンの方々の参考になっているのかなと。

そうそう、この方は欅平からここまで来る途中に猿に威嚇されたそうです。かなり「危険」を感じたそうで、翌朝も先に出発されるときに「猿には注意ですよ」と念を押されたっけ。ちなみにちょっと調べてみたら、水平歩道で猿と出くわして威嚇や攻撃を受けた人はそこそこおられるようですのでお気をつけあれ(幸いなことにわれわれは大丈夫でしたが)。

お風呂から戻ってきたら、夕食の準備は進んでいましたがまだしばらくということでロンドンオリンピックをTV観戦(笑)。ただし上画像の被写体はわたしじゃありません。ところでどうしてこんな谷あいでばっちり地デジが写るんだろうと思いましたが、これもトンネルあっての物種系なのでしょうか?でもまさか欅平からケーブルを引いているわけもないだろうし、普通にパラボラで何とかなっているのかもしれません。

そして夕ご飯。阿曽原小屋名物のカレーではありませんでした。Sさんに伺ったところ、多人数の宿泊時には品数よりも数こなしとスピード(入れ替え制だし)ゆえにカレーなのだが、今日くらいの人数(20人弱)だったらこのようにいろいろな品を出すということでした。ということはたぶん今後ともTakemaが阿曽原カレーを食することはないものと思われます(混雑嫌いなので)。

ちなみに食後の皆さんは結構さっさと部屋に戻って行かれたのですが、わたしは地元酒「立山」に手を出していたこともありしばしオリンピック観戦。そうしたら余ったスイカもいただけたし、卓球の愛ちゃんも見られたしということでそこそこ満足でした(右上画像マウスオン)。

さぁって、いよいよ明日は登山最終日!
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