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- その11 渡島半島の急峻部をめぐる「矢越クルーズ」! -



ここは津軽海峡なんですが‥この日はまさに「鏡の海」。

(2021年7月-8月 その11)

知内温泉に宿泊したのは温泉もさることながら、翌日のアトラクション(854クルーズ)への利便性を考えてのことでした。スタート地点である矢越の港まで、函館市内からだと1時間以上はかかってしまうのに対し、知内温泉からだと20分と少しなので近くて便利。それに、函館市内@人の多い場所はコロナ禍という時節柄を考えるとよそ者は遠慮しておくべきかなと考えたわけです。



現地には9:00出航時間の20分ほど前に到着です。この日「お天気は下り坂に向かう」とのことでしたが、この段階ではまだ薄日が射すこともあって何とか保ちそうです。それはともかく、右上画像の場所に来てみても、係員の方もおられず他にお客さんらしき人影もないんですが?

電話をしてみると、「今から向かいます」とのこと。自販機で飲み物を購入している間にすぐに係員さん、いやこのクルーズ運航のキャプテンである村田さんがやってきました(公式サイトでお名前とお顔を公開しておられますので念のため)。あ、854クルーズの公式サイトはこちらです。

お互いにご挨拶のあと、村田さんがおっしゃった言葉にいきなりびっくり!





というわけで、もうこちらの準備はできていますのでさっそく船に乗り込み、8:54出航です。



旅客定員10名のところ2人だけでひーろびろ。



さて話は変わりますが、渡島半島の南端部を海沿いに結ぶR228ですが、実はある区間だけ海沿いを避け内陸に迂回しているのです。それが、





函館と松前を結ぶ幹線ルートですから古くから整備が行われてきた道のはずですが、海沿いをあっさり諦め、一気に内陸ルートにシフトしているのには当然理由があります。それは‥ハイもうおわかりですね、



ということにほかなりません。それでも「国道としてではなく地域の生活路としての道くらいはあるのではないか」と思ったりもしますが、少なくとも知内-福島を結ぶ「車道(牛馬道を含む)」はこれまで一度も開削されたことはなかったはずです。それだけ急峻な地形だということです。

ただし、知内町側は矢越地区まで道道531号が、福島町側は岩部地区まで道道532号が通じています。つまり矢越-岩部区間があまりに急なことから、「それぞれはるか手前から大きく山を巻いて越えよう」というルート取りになったのだと思います。

結果としてこの海沿い区間の陸地には人の手がほとんど入らず(皆無ではなかったようですが)、そのため自然の造形や生態系が守られるに至ったというわけです。そこを小型船でじっくり見て回ろうというのがこの854(やごし)クルーズというわけです。なお福島町岩部地区にも同様ツアーの「岩部クルーズ」が運航されているようです。


少し離れてしまいましたが、上にスクロールして右上画像を見ると「もうすでに道がない」ことがわかると思います(矢越岬手前)。つまりはそういうことなのです。この崖ですし。



さてその矢越岬まで、船は快調に進んでいきます。特産のカキだったかホタテだったかの養殖棚が並んでいますが「ここは湖?」と思うほど波がなくてびっくりです。冬場は大荒れになりそうな津軽海峡(ついついあの歌のイメージ)ですが、棚が流されたりしないのかなと思い、ふとお隣福島町の特産海産物を確認してみると、「カキ・ホタテ」がないのですよ。そうか、知内町沿岸は北西の季節風から地形的に守られているのか!と思った次第です(違っていたらゴメンナサイ)。

海岸近くには海から突き出た岩場も多く、釣り客の瀬渡し需要などあるのかもしれませんね(何が釣れるかは存じませんが)。海鵜やカモメものんびり羽を休めておりました。



さて最初の見学地である名越岬にやってきました。崖をよじ登るように急な階段が続いていますが、これは「灯台管理の巡視路」なのだそうです。灯台はもちろん通常無人で遠隔管理されているわけですが、それでも定期的なメンテナンスは必要というわけで、年に1回(だったか2回だったか)、下の船だまりに船を着け、メンテ作業の方々が灯台のチェックにいくのだそうな。

昔々の東京電力のCMで長距離送電網の維持管理をテーマにしたものがあって、雪山を越えていく送電線の管理をテーマにしたものがあったことを今も覚えています。灯台だけでなく送電設備ほか様々な社会インフラは「設備を造ってしまえばOK」ではなく、設置後はるか長期にわたる定期整備が必要になってくるわけです(その苦労を太陽光云々を手がける業者や「安い電気」を標榜する業者などは根本的に理解していないと思うので、わたしは他業者に乗り換えるつもりは全くありません)。

山歩きを多少濃厚にした方なら、登山路を交差(分岐)する形での「送電巡視路」を見た(通った)」方もおられるのではないでしょうか。その巡視路が(最低限とはいえ)刈り払いや階段設置等の維持管理がなされていることも。それは実際に送電線鉄塔をメンテナンスする方々のために、巡視路維持管理の方々が行っているわけです。そうしたトータルコストを含めてわれわれの「電気料金」は成り立っています。そうしたコストは全部一次業者におんぶして「安い」と売り込み、いざ市場価格が高騰すると政府に補助してと泣きつく‥そういう輩(企業)は要らない。自分はそう思います。あ、一部の「意識高い系ゲージツ家」にもいえるかもしれませんが(笑)。

ハイ話が思いきりそれましたね。というわけで名越岬をぐるりと回り込みます。



灯台はこちら側からしか見えません。夜間の燭光はどうなのかな。



名越の岬を回り込むと境界的には福島町に入ります。ただ昔はそんな境界もなかったでしょうし思いますし、エリア的には間違いなく矢越地区(知内町)だといえるでしょう。というわけでこの岬の上には灯台以外にもう一つ、矢越八幡宮が鎮座まします。縁起によると1655年、松前藩(の家老)により創建されたそうで、歴史がありますね。

しかし矢越地区からこの神社へ続く道(歩道)はなく、参拝には舟が用いられたそうです。岬の集落の反対側には舟を着ける舟溜まりがあり、そこからは神社へと続く歩道というか階段が設けられています。しかし嗚呼、参道の途中に設けられていた鳥居が倒壊してしまっていますが‥。

と、ここで村田キャプテンがおもむろに何かを取り出し‥





(動画からのキャプチャー画像なので画質が悪いのはお許しを)。

聞けば、地元出身の村田さんは地元の神楽師匠から直接教えを受けており、地域の伝統芸能を後世に伝えていきたいのだとか。「『限界集落』化しつつある地元であっても、この地にこれまで伝承されてきたものをここで絶やすわけにはいかないし、それにここ名越の美しい自然を地域外の人たちにも知ってもらいたい」と。

そんな思いから「青の洞窟」(海蝕洞)への船による入洞を国交省にかけあい、このツアーを2014年から始めたそうなのです。すごいなぁ。



船はさらに海岸沿いを進んでいきます。このあたりは間違いなく火山地形、それが波による浸食を受けてこのような険しい地形になったわけでしょう。でも、この険しさは鳥たちの営巣地としては絶好で、あちこちにそれらしき場所がありました(この時期は抱卵期ではありませんでしたが)。





この界隈に毎年ミサゴが営巣する場所があるのだそうで、そもそもミサゴ自体が数を減らしているという昨今、こうしてごく普通に(たまたま訪れたタイミングで)見ることができたことにびっくりです。ちなみにミサゴの主食は魚で、もちろん潜水こそしませんが、海面に上がってきた魚を足で「グワシ!(古)」と掴んで再浮上するのだそうな。かなり成功率の低そうな狩り方法なんですが、慣れれば何とかなるんでしょうね。そしてそもそも「豊かな海」でなければ成り立たない狩りですから‥。



やがてやってきたのは穏やかな石浜。この海岸沿いで唯一といってもいいほど平坦な浜です。地名は伺いませんでしたが(というか覚えてない)、流れ込む沢の名前にちなんで「ツヅラ浜」としておきます。

ここには戦後の引き揚げ者が入植したこともあったそうですが今は当然無人です。地形が緩やかなためヒグマが姿を見せることもあるようですが、さすがにこの日は見られませんでした。そういや、日本ではまだ野生のヒグマを見たことがないなぁ(見たことがあるのはカナディアンロッキーとカムチャッカ)。



この浜の沖合には「お宝」が。この浜のすぐ前の海には天然の真昆布が生えています。村田キャプテンは「貴重です」とおっしゃっていましたがそれは確かなのでしょう。

ただし天然の昆布ばかりが高級ではないようで、用途によっては養殖物のほうが良いようですし、そもそも天然物は質が安定していないようなのです。また道南で多く養殖されている促成(一年物)の昆布は昆布締めにもっとも適しているという話もあり、そうなると「ここの天然昆布でウハウハとはならない=だから誰も採らない」というのもわかります。難しいのね。



さてそうこうしているうちにこのツアーの核心たる「青の洞窟」にやってきました。この日(のこの時間)は高曇りだったため「青」はあまり期待できないだろうとは想像していましたが、それでもそこそこの「青」は見られましたよ。



奥に入ってしまうと光量の関係で「青」は拝めないのですが、その代わり船底からの照明が照らされます。いやまぁ自然の見え方ではないですがこれはこれで有馬温泉です。ページの最後に動画を載せますが、この海蝕洞から出ていくときの海底は確かに青かった(船底照明は消灯していました)。



おしんこどんは何やら撮影中。右上画像は船底からカラーライト点灯中です。



これはライトなしのタイミングかな。この海蝕洞内には無数のツバメの巣があるそうな。







というわけで、洞から外に出てもう少し先へと進みます。







そういえば、これほど急峻な地形なのに滝はここぐらいしかなかったです。とはいえ、大雨の時などは一帯のあちこちで滝がお目見えすることでしょう。その昔、NZのミルフォードサウンド(フィヨルドの急峻地形)がまさにそうでしたし。



この先の「タタミ岩」で折り返しとなります。海沿いに顔を出した岩は実に平坦で、この形状からその名付けとなったことはほぼ間違いないはず。ご覧のとおり海鳥たちの憩いの場となっておりました。

ここからは一気に港に戻ります。というわけでこのツアーをダイジェスト動画でふり返ってみましょう。






さて港に戻ってきました。このカゴは何だろうと思って伺ってみると、何とウニの養殖カゴなのだそうです。稚ウニをここで養殖し、道内ほか各地に移植(販売)しているのだそうな。ここ数年来「ウニの養殖」に関するニュースを目にすることが多くなりましたが、稚ウニに関してはすでに行われていたというわけですね。

戻ってくると、ちょうど次のツアーを予約しているとおぼしき家族連れが到着したところでした。でも「次もひと組」なのかなぁ。まぁわれわれ同様この家族連れにとっては一番嬉しいはずですが。

ところでキャプテンはこのツアーとは別の副業(というかたぶんそちらが本業)を持っておられるようで、それが「ドンデマカロニ」というお菓子なのです。お米の「ポン菓子」のことをこちらでは「ドン菓子」というようで、そこにフランス語の冠詞である「de=の」をかませた「マカロニドン菓子」というわけです。

このお菓子を函館出身のTERUさん(GLAY)が「美味」とツイートしたことで人気に火が点き、今や近隣の主要ターミナルで販売されているのだとか。なおキャプテンいわく、「夏場などは日中にツアーを行っている間に皆さんが菓子を作り、ツアー終了後は自分(たち)が袋詰めと出荷手続きをする毎日です」とのこと。いい流れになっていますねぇ。というか、下船前にそのお話をなさるのであれば、下船後にその場で「直売」すればそこそこ売れるのでは?(やってほしい)。



というわけでお手洗いのあるミニPAまでやってきました(船や港にはトイレがないので乗船前にはここでコトを済ませておくこと必定です)。それにしても津軽海峡たるこの海ですがこの日は本当に穏やかでした。

さてこの日はこの海峡を渡るのですが、フェリーの出航時刻までにはたっぷりと時間があります(まだ11:00前)。そこで‥



というわけでこの続きは次ページにて。

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