大西洋の荒波に耐え、餌を取り合い、そして圧死その他の危険から
逃れたものだけがここで生きることを許される。ああ自然の摂理。

前のページで「このコロニーには80,000〜260,000頭ものアザラシが生息」と書きましたが、これだけの頭数が密集して生活するからには、当然それなりの問題も関わってきます。

まずは「食料」。彼らは一日に自分の体重の8%の食料、つまり魚を摂取する必要があるといいます。雄の体重は200kg近く、ぐっと小さい雌でも80kgということですから、仮に最小頭数の80,000頭が全員雌だったとしても、80kg×8%×80000=512000kg、つまりは512トンもの大量の魚が毎日毎日消費されていくことになります。このコロニーが移動しないことを考えるとこの必要量はまかなえているということになりますが(確かにこのあたりの海には魚が豊富だということです)、裏を返せば、ちょっとした状況の変化が彼らの生死を左右することにもなってしまいます。1994年には、約30年周期で襲って来るという赤潮にみまわれ、数万頭が命を落としたとか。また、アザラシの子供は生後一週間のうちに約20%が圧死その他の理由で死に至るともいいます。母親が自らの体重を以て子供を殺してしまうわけですね。そのうえ、夜になると訪れる侵入者、ジャッカルなどによって狙われるのも子供。さらには人為的な影響もあり、大人になるまで生き残れるのはそう多くはないのでしょう。

そんな、ここCape Crossのコロニーで、Takemaがふと目撃したものは‥

 

まわりの子供がもう随分大きくなっている中、まだほんの小さな子供。どうやらまだ先日生まれたばかりだったのでしょう、しかし何らかの理由で命を落とし、放置されてしまった赤ん坊。そうなると、彼とてもはや浜の清掃人カモメの餌となるしかありません(引きずったあとがあるところを見ると、重くて持ち去ることはできないのでしょう)。カモメにとっては願ってもないご馳走、赤ん坊にとっては「何のために生まれてきたのか」を問わざるを得ない一瞬です。そして、その事を知ってか知らずか、背を向けてひなたぼっこに興ずる「同胞」「先輩」たち。しかし、これがまたこの地での現実であり、日常なのです。

自分は見ませんでしたが、おしんこどんは「ぐったりした赤ん坊(たぶん死んでいる)を口にくわえてあちこちを移動する母アザラシの姿」を見たと言います。そのアザラシが近づくと、周りのアザラシがざざっとよけるようにして逃げたのだとか。わが子の死を現実のものとして受け入れられない悲しみはどんな動物(人間を含めて)も同じなのですね。

最後は少し重い話になってしまいました。すみません。



さて、このあとは内陸に入り、先住民族の壁画があるというTwyfelfonteinを目指します。まだここから遠いんだなこれが。