生きるって何なのだろう‥ Welwitschia。

 

左のやつですでに数百年もの株齢?があると思われる。この植物には雌雄があり、
ちょうどこの時期は雌木の種子が熟すころ(左写真は雄株だけど)。
マツボックリ状のカサからは、風とともに種子が飛び立ち始めていた。

「Welwitchia」。和名では「奇想天外」というなんとも変わった名前を持つこの植物は、ほとんど雨の降らない砂漠の大地にしっかりと根を張り、なんと数百年から数千年もの寿命を持つという摩訶不思議な植物なのであります。手塚治虫の名作「火の鳥」宇宙編だったか、宇宙の流刑星で不老不死で生きることを命じられた罪人たちが、そこで「人間」として生きることに耐えかね、その星で生きる環境に最も即した「生態」にメタモルフォーゼしてもらうというような内容があったが、その「生態」モデルとなったのはまさにこの植物ではないかと考えてしまったほど、なんとも厳しい環境で生き抜いている生き物なのですね。

(なお、上記の手塚作品のもとネタに関して詳しくご存知の方がいらっしゃいましたら、ぜひとも真相をお知らせください。ここでの記載はあくまでTakemaの想像に過ぎません)

まあそれはともかくとして、エリアの一番奥にある最大の株は推定年齢1500歳(またはそれ以上)だとか。「なぁーに、日本の縄文杉のほうがはるかに長生きじゃないか」と思われるかもしれませんが、生物にとって水は必要不可欠、その水に常に不自由しながら千年以上も生き続ける、その苦労は並大抵のものじゃないと思うのであります(ま、本人というか本株にとっては「ん?水?ないのがあたり前なんじゃないの?」と不思議がるかもしれませんが)。そういう意味でも、なんとも貴重なヤツなのであります。

でも、そんな「有名株」の周りにも、無数の、それこそ推定年齢数百歳の「後輩たち」が頑張ってたくさん生えています。普通の大きさでも株齢500年はざらだそうで、そんな彼らの点在する平原をしばらく見ていると、「彼らはいったいどこまで深く根を伸ばして水分を補給しているのか」というような物理的な疑問だけでなく、「彼らは何を考えながら生きているのだろうか」とか、「そんなにここで長く生きていくことに何の意味があるのだろうか」などというような宗教的というか哲学的というか、まぁいくら考えても絶対に結論の出ないような命題にぶち当たってしまったりもするわけですね。

さてここで「お勉強の時間」です。この植物の芽吹きから成長するまでを写真とともに紹介してみましょう。ただし、間違っていたらごめんなさい。知ったかぶりが多分に含まれている場合がありますm(_ _)m。
このページのトップ写真にあった黒い松かさ状のものは、実が熟していくうちに次第に茶色味を帯びはじめます。
やがて松かさ同様にカサが開き始め、ぐっと薄く白い羽を持った種の一つ一つが飛散し始めます。
今回訪れた時期はちょうどこの飛散の時期にあたっていて、風の吹き溜まりにはたくさんの種が転がっていました。
しかし、毎年これだけの種がこぼれるのに、その割にはこのあたりがWelwitchiaだらけにならないところを見ると、どうやら発芽できる種には限りがあるのか、またはよいタイミングで降雨でもないかぎり全部駄目になってしまうのかのどちらかなのでしょう。
そしてこれが風とともにあたりをさまよい流されていた種子。羽の中心部に種となる部分があるのがよくわかります。茶色の部分は松かさとくっついていた部分でしょう。ということで、一つの松かさには本当に多くの種子がついていたことがわかります。なお、このWelwitschiaは国の保護植物になっていますので、種とて勝手に取ることはできないということを聞いたことがあります。とはいっても、そこらに転がっているんですけれどね。
このエリアで見つけた、発芽直後と思われるWelwitchia。ただし本物かどうかは定かではありません。
この状態だけをみると、この植物がこれから何百年もの長きにわたって生き続けるとは考えられませんね。
葉の長さはせいぜい3cmほど。まだまだ深く根を伸ばしているとは思えませんから、この時期に雨が降らないとこの株も駄目になってしまうのかもしれません。
今回見つけた唯一の若芽ゆえ、頑張って育ってほしいものです。
縮尺の目安になるものがないのでわかりにくいのですが、葉の長さは20-30cmほどにまで育った若い株。
この写真はたまたま別のエリアで撮影したものですが、ここのガイドさんは「これで2 or 3年目」というように説明していました。
このペースで育てば数十年後にはとてつもない大きさになっていきそうなものですが、面白いことにこのWelwitchia、最後まで「たった二枚の葉」のまま育っていくのです。
中にはその貴重な二枚のうちの一枚が枯れてしまい、一枚葉のまま頑張って生きている状態のものもありました。
見た感じは「北海道の昆布が浜に干された北海道の日高昆布」という感じでしたけれど(笑)。
ここまで育てば、もはやそう簡単には枯れることはないだろうなと安心して見ていられそうです。人間でいえば「『世間なんてこんなもんだぜ』なんて一人前の顔をして知ったか系の顔をして格好つけてる高校生」というところでしょうか。
しかしWelwitchiaの社会には長老たちがごまんといるわけで、この若株も彼らの前ではタジタジになっているのかもしれません。
とはいっても、ここまで大きくなるのには数十年くらいかかっているのではないでしょうか。
なお、この時期からはそれぞれの葉が縦に裂けはじめます(この株も右側の葉が縦に切れ始めているのがわかります)。
だから、大人の株になると何枚もの葉が幾重にも重なって生えているように見える、というわけです。
そしていよいよ成体となった雌株。上のほうに薄茶色に見えているのが種子を含む松かさとそれを支える枝。
母親はこうして次世代に未来を託すというわけなのでしょうが、この母株があと何十年、何百年生き続けるのかは誰にもわかりません。
もともと詳しいことがあまりわかっていない植物なのですから。
さてさて、こんな不思議な植物を見に行くのにはさぞかし大変な道中が待ち構えているのかと思いきや、なんと西海岸のSwakopmundから車で一時間くらいのところにあるわけです。このエリアには、なんだか「地球とは思えない」ような風景が広がっており、そのあたりの見どころを「Welwitchia Drive」という観光用の周回道路が結んでいます(ただし当然ダートですが)。次のページでは、この道路沿いで自分たちが見たモノについてのご紹介を。