しまった、カメラのバッテリーが!

 

いよいよスタート。逆光で金色に染まるサルオガセ(寄生植物)を見ながら(左)、
陽はまだそれなりに長いとはいえ影も長く伸びてきた中を
とことこ歩く、我らは本日最終のトランパーでした。

さて、そんなわけで初日の二時間をとりあえず歩き始める。勝手を知った道ではあるが(とはいっても2回目)、平坦ではあってもそれなりに長い。ただ、最終組ゆえ、抜きつ抜かれたりする煩わしさがないのがいい。NZのトランピングの大多数のトラックは人に会うことすら珍しいのが普通だが、なんだか夕暮れ近い槍沢(北アルプス)を歩いているような気になったりした。

 

Clinton Hutは昔とは全く違う場所に建っていた。前はすぐ前が川だったのに。
そういえば1990に歩いたときも、数ヶ月前にレンジャーの小屋が流されたとかで
レンジャーはテント住まいだった気がする(違ったかな?)。
浸食の危険を避けて内陸に移動したのだろう。

てなわけで、Clinton Forks小屋に到着したのは、もう日もすっかり傾いた夕暮れ時。定員制とはいえ、空いているベッドは別々の棟に一つずつ。まあこりゃしょうがないことだけれど、明日からは早めにベッドをキープすべく早立ちしようと心に決めたのであった。で、食堂棟の壁に貼られていたホワイトボードには「この先4日間、ずっと晴れでっせ」の文字。ホントかどうかわかりゃしないけれど(よくはずれるしね)、雨の予報が出ているよりはずっと気分はいい。しかも「Mainly Fine」とかじゃなくてシンプルなのがいい。夕飯は鹿肉のステーキとしゃれ込んだつもりだったが、なんだか結果的には「鹿肉煮込み汁」みたいになってしまった。持参のカスクワイン2リットルで乾杯。もちろん、ここまで何とか耐えて持ってきた日本酒も、当然のごとく背負ってきたビールも花を添えることになった。

夜はおきまりのごとくツチボタル見学ツアーに。道のすぐ脇なのだが、なんだかツチボタルよりも見学者の方が多いような気もしたぞ。しかし、高校時代に、夜目を慣らす練習とかで明かりをつけずに山道を歩かされたことを思い出す。効果があったのかどうかは定かではないが、ふと懐かしく思い出す経験があるだけ良かったことにしておこう。
そして朝。起きたのは我々がほぼ最初。当然がらがらのトイレで用を済ませ、飯を食い(パンとミューズリー、コーヒー)、ようやく明るくなった小屋周辺にたむろするkeaの写真でも撮ろうとした。まだ光量は全然足らないので、当然フラッシュ撮影になる。1枚撮った。そしてもう1枚。随分充電に時間がかかったな、と思った。で、もう一枚、小屋周辺を撮ろうと思ったら…。なんと、シャッターがおりない。「やば、まさか」と思い、ノーフラッシュで何とかなるだろうかとトライしてみた。駄目だ。全然シャッターが切れる気配すらない。完全にバッテリー切れだ。予備電池は持ってきているから大丈… …しまった、サブザックの中だ!そしてサブザックは、…Te AnauのMotelに預けてきてしまった!

「いかん!!」

と思ったところでここではもう遅い。やってしまった。「世界一美しい散歩道」で、フィルムもカメラもありながら、バッテリーがないのだ。思い出してしまった。「Aotearoa Mail」のRyuさんの話を。やはり同じこのMilfordで、雨にデジカメを濡らしてしまって動作しなくなってしまい、Ryuさんをして「Aotearoa Mailはどうなるんだ・・・」と言わしめたという、あの話だ。かたや濡れによる絶縁不良その他、山の中にいる素人に手が出せるはずはない。しかし、バッテリー切れは、機械そのものに何らの異常がないだけによけい悔しいものがある。そしてなによりも、そんな基本的な失敗をしてしまった自分が悲しい。

しかし唯一の救いは、バッテリーというものはいきなり死んでハイおしまいよ、というものではないということ。マンガン電池などは、ダメになっても時間をおけばまた何度もゾンビのように復活するものなのだ。もちろんこれはマンガン電池などではなくリチウム系のやつなのだが、2本あるし、暖めたりゆすったり、果てはライターであぶったりして刺激を与えれば「もう少しは」(この「少し」というのが問題なのだが)もつに違いない。そこでしばらく電池を取り出して手で暖めてみる。とりあえず少しは暖かくなったかな、という頃に取り出して再度セットし、おそるおそる電源を入れてみると… やった、動くじゃないのさ!AFレンズもちゃんと回るぞ!そうとわかったらとりあえずすぐさま電源OFF。電池をカメラケースから出し、必要なときにセットすることにした。これでどこまで撮れるか……それは誰にもわからない世界なのであった。

さて、この続きは次のページでお楽しみ下さいな。