− 伝統の「合わせ網漁」見学ほか (その1) −



イクラに精子をかけた(人の手によりかけられた)直後のオス。無念なのか本望なのか?

(2016年10月22日)

SNSとは不思議な縁を生むもので、とある方が「木戸川の鮭漁を見学したい方はいませんか?」系のツイートを発しておられたので一も二もなく飛びついたTakemaです(笑)。

福島県の楢葉町を流れる木戸川。鮭の遡上する川としてはほぼ南限の川らしいのですが、その一方で単一河川における鮭の遡上数は全国でも指折りなのだそうでしてBEST10の常連、毎年だいたいはBEST5にその名を連ねていたといいます。あの震災と第一原発事故までは。

事故から数年、楢葉町への立ち入りが制限された結果、鮭漁および稚魚の放流は数年間完全に止まってしまいました。が、しかし!2015に楢葉町に出されていた避難指示が全面的に解除され、遡上する鮭の線量値も圧倒的な基準値以下であったことから、2015秋には木戸川での鮭漁が再び始まったというわけです。

とはいえ「木戸川漁業協同組合」が行う漁ですからそもそも観光客向けのイベントというわけではありませんし、「見てみたいんだけれどなかなかそうもいかないだろうし」と基本的に最初から諦めモードだったところに上記「鮭漁の見学」ツイートですから、これはもう飛びつく以外の選択肢はありませんでした!(笑)。

なお、この日は特別に「鮭の採卵&受精作業」も見学できるとのこと。やったぁ!というわけで、喜び勇んで当日所定の場所時間に集合したというわけです。というわけで、いつもの旅行記モードで進めていきましょう。



楢葉町に行くのですから広野ICで高速を下ります。と?R6との取り付け道路にはパトカー先導のもと確か5台のバスが?そしてR6との交差点にはなぜかタイベックを着用した警察官とおぼしき方の姿が?(右上画像マウスオン)。何だか一瞬数年前のフラッシュバックかと思いましたが(この時とか)、


ああなるほど、まさに訓練のさなかにやって来たというわけですね。

でもなぁ、今でこそこんな軽口をたたけますが、2011/4上旬にはいわき界隈でも「沈痛な雰囲気」を感じましたからね。人はいるはずなのに洗濯物が干されているわけでもなく道を歩く人の姿もほとんどない、あの湯本エリアの風景は忘れられないです(その時期に千葉から北上してくる自分も自分ですが=ガソリン不足中)。



以前に建築中だった常磐線線路脇の住宅は完成していました。ここに限らずあちこちで新築住宅の建設が目に入る楢葉町です。2016/10/4現在、帰還者数は385世帯 696人に過ぎないようですが(ちなみに震災前の住民登録人口は8011人=情報ソースはこちらから)、右上画像の奥にも建築中の住宅が見えていますし、これから帰還のペースも上がっていくのかなと思います。

まぁもちろんいろいろな考え方や事情があるのは当然のことですし、生活インフラが整わないとかなかなか難しいですよね。富岡町ではスーパーやホームセンターの開店予定があると聞いていますが、楢葉はどうなっているんだろう?(あまり聞こえてこないんですが)。

はい、そんなわけで木戸川漁協さんのあたりまでやってきました。この看板から川の土手道を進んでいくと、右側に漁協の建物、そして左側には‥





このやな場は鮭合わせ網漁のために10月初旬に設置されたようで、このゲートのために遡上を阻まれる鮭は唯一の通り道(のように思える)左側のブースに取り込まれるというわけですね。まず最初にここに入り込んだ鮭の捕獲作業が始まりました。



捕獲した全ての鮭をトラック荷台生け簀に入れているのかと思いましたが違いました(苦笑)。



トラック荷台に投入されるのは当然ながら雌のみ。雄の扱いがぞんざいなのはご想像の通り(同情)。



捕獲される鮭の画像を撮るTakemaを撮るおしんこどんでありました(右上画像マウスオン)。

このあとは採卵場方面へと移動。獲った鮭の採卵や受精は(鮭が死んでしまえば)時間との勝負らしいので、とりあえず生け簀に入れるわけです。



鮭を1匹1匹、それぞれの樋に流し入れていきます。ん?よく見ると樋ごとに「やわい」「かたい」の表示がありますが?これは「雌のイクラの成熟度を確認した上でそれぞれの樋に流す」のだとか。要は瞬時にお腹をプニュっとして確認ということなんでしょうか?

さてここからは採卵−受精の流れを見学させていただきます。ガラス越しなんですが、かえって目の前で見せていただけるので嬉しいです。参加者各自がベストポイントを譲り合っていたので、たぶん皆さんそれぞれがいいショットを撮れたのでは?



当然ながら慣れた手つきで雌鮭のお腹に刃を入れると‥







しかし雌10匹のイクラを採って終わりではありません。そこに雄の精子を3匹分投入します!



上画像マウスオンで拡大画像に変わります。



「ここまで雌何匹、雄何匹」とカウントした上で、攪拌し受精させたイクラを水槽へと投入します。説明によると雄の精子の数(億単位)からすれば1匹ぶんで十分なのですが、やはり中には「駄目な雄」もいるようなので、保険の意味で3匹分を投入するのだそうです。

ついでに言えば、震災前の最盛期には「500匹/日」の雌をさばいていたのだとか。ちなみにこの日はこの時点で「80匹」ということです。また受精作業はやはり「時間との勝負」とのことで、死んでから1時間経った雄&雌とではもはや受精しないのだということです。だから雌は「やわい&かたい」別に生け簀で泳がせておくわけですね。

さて、この一連の作業を動画でご覧下さいませ。木戸川の鮭2016、こうして「未来への命を繋ぎます!」。



(雌10匹分のイクラに雄3匹分の精子をかけて受精させます)




(雌だって雄だって諸般の事情で受精に適さないやつはいるんですよ。そして暴れるやつだって)


雌の場合まだイクラが熟していなかったり、雄の場合も精子の出が悪かったりしたら採卵&受精には適さないというわけです。ちなみに「使われなかった鮭はどうなるのか」という質問が出ましたが、「ちゃんと加工に回します。鮭はそもそもほとんど捨てるところがないんですよ」とのことでした。



さてこのあとは作業場に入ります。ところで事前の予想とは全然違ったこと、それは「作業場内の生臭さがゼロだった」という事実!常時大量の水を床に流し続けていることもあるのでしょうが、これはちょっとびっくりでした。それだけ衛生的ってことですね。



さてここで「雌雄同定クイズ」のスタートです!「顔つきが違いますから皆さん分かりますよね」とおっしゃいますが、恥ずかしながら自分にはあんまり区別が付かない‥。人間でいえば薬指みたいな位置づけの背びれも「ほら、こっちが大きいですよねだから雄です!」といわれても‥。これらのマークを瞬時に判断してるんだ漁師の方々は‥もちろんプロとはいえ頭が下がります。



たぶんキミたち全員が雌ですね。雌10匹につき雄3匹ということは‥右端の色が違うあいつは雄なのか?

さてこのあとは、いよいよ木戸川ならではの「合わせ網漁」を見学します!



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