福島第一原発が爆発したとき、その同じ原発を見ながら釣りをする日がやってくるとは万が一にも思えなかったのです。

(2017年9月10日 その2)

船はさらに進み、いよいよ福島第一原発沖まで北上してきました。最初に沖合1.5kmまで近づいて海底の泥を採取します(釣りはまだよ)。で、ここで元東京電力社員で現在一般社団法人AFW代表の吉川さんから福島第一原発の現状について説明を受けました。もちろんそのわれわれの背後には撮影カメラや音声マイクが配置されていたんですけれどね(笑)。

まずは近づいてきたときの動画から。







左上画像の左側がすでに燃料棒を全て取り出し終えた4号機。お隣3号機の上部には円形の構造物が見えていますが、これは3号機内にある使用済み燃料を取り出して格納するためのカバーだそうで、完成するとロールケーキのような形になるようです。3号機は建屋内の線量値が高いと聞いていますので、燃料棒取り出し時に放射線物質が外に飛び出さない&作業員の被曝をできる限り下げるための施工だということです。

また唯一建屋の爆発から逃れた2号機(右上画像左側)は、逆にいえば「取り出すための穴がない」というわけで、こちら側からは見えない山側に2号機建屋に密着させる形で作業建屋を建設中だそうで、ゆくゆくは2号機建屋の「横っ腹に穴を開けて」取り出し作業を行うそうです。ただお隣の、現在鉄骨がむき出しの1号機同様燃料プールからの燃料の取り出し計画(開始時期等)が明示されているわけではないようです。

しかしいっぽうで、1-3号機の燃料プール内温度は「あえて冷却しないでも自然冷却で大丈夫」なところまで落ち着いているようです。もちろん冷却水は追加しているのでしょうが、現状では燃料プールのほうは安定しているのかなと。もっとも建屋自体の強度も落ちているでしょうし、いつまでもこのままでいいというわけではないですが。

なお、津波到来時にディーゼル発電機1基が何とか生き残ったことで冷却機能を維持できた5.6号機(左上画像マウスオン)周辺にはクレーンもありません。ただし5.6号機とも2014/1付で廃炉となっています。

このあと質問タイムのところで「処理水」タンクがどんどん増えていることについてTakemaが質問しました。トリチウム(三重水素)が大気中や海水中にも広く存在しているのなら(&放射線物質としての力はセシウムなどに比べてはるかに小さい)、その海洋への希釈放出ばかりを考えずに「蒸発させて体積を減らす」という手法はないのかというお馬鹿な質問でしたが、吉川さんいわく、「現状ではどのような放出法でもやはり反対されてしまうのではないか」ということでした。

ただ今あらためて思うのは、このまま数十年もの間無限大にタンクを増やしていくことも出来ないとしたら、いつか何らかの形での放出は必要になるはず。その時に事前の丁寧な説明のもと『風評被害に輪を重ねる可能性がある福島沖への海洋放出ではなく、日本の排他的経済水域(相当の沖合)における何らかの希釈排出』は必ずや必要になってくると思うのです。「出てしまったもの」はどうにかするしかないのですから(ちなみに世界各地の原発でもトリチウム水は希釈排水されているそうです)。



聞き手の一般参加者は3人だけなんですがマイクは2本、そしてもちろんカメラも(笑)。

ちなみに放射性物質の飛散を防ぐために福島第一原発の構内地面がモルタルで覆われたということは聞いていましたが、たとえば鉄骨むき出しの1号機などはどうなっているのか、飛散防止物質が塗布されたとはいうけれど‥その疑問に対しての吉川さんのお答えは以下のようなものでした。



なるほどそうなんですね。もっとも台風時などの瞬間最大風速は40mを越えることもありますし、ジェル系なのかなと思うと劣化の問題もあるだろうし‥ま、「その都度対応」するしかないのでしょうが(そもそもかの原発事故以来のほぼ全てが「都度対応」だったはずですし)。



さて説明タイムと前後して「原発1.5km沖での海底泥採取」です。ちなみに「核物質防護」のため沖合には海上保安庁の艦艇が停泊しておりました。長栄丸がこれ以上原発に近づいたら一気に接近警告し、それでもさらに近づこうとしたら‥威嚇発砲されたのかな?もちろんわれわれはあくまで海洋調査のために来たわけなのでそんなおバカはいたしません(というか行動計画を届け出済みでしょう)。

で、この機器を海底まで沈めると自動で下部が開き、海底の土砂をすくってくれるそうです。なるほどねぇ。



船上で放射線濃度を計測するわけではありませんが、この海底土を継続して調査していることはとても意義のあることだと思います。でも、1-3号機の使用済み燃料プールでさえも自然冷却可能になっているほどに崩壊熱が減衰していることを考えると、数値的にもさして高いものが出そうにはないと思うわけです。

ところで前のページで「福島第一原発から1.5kmの沖合であっても海上であれば問題ない」と書きました。SNS上には今でもたまにデマつぶやきとして「今も福島第一からは大量の放射性物質が大放出中云々」と根拠なき無責任コメントが出てきたりしますが、現在計測されている放射線の線量値は基本的にかの原発事故時に放出された物質によるものです。

だから各地の数値が物質の減衰等により下がっているわけです(もちろん今後の収束作業中に不測の放出があり得ないとまでは申しません。現場の方々はその可能性を限りなくゼロに近づけようと日々努力なさっていることを含めて。なお各地の計測数値は東電本社による数値操作の隙もないままダイレクトにネット上に公表されているということです。

話を戻せば、ここは海上です。仮にかつて放出されたであろう放射線物質がいまこの沖合にどれだけとどまっていようとも、その物質と船上のわれわれとの間には少なくとも厚みにして数十mもの海水=遮蔽物が存在します。いっぽうで1.5kmもの距離をものともせずわれわれをおびやかそうとする「超危険な放射線物質」など存在しません。ゆえに海にいるわれわれはまったく問題なし!

もっとも「もう福島第一原発は安全だ」などと申し上げるつもりなどは毛頭ありません(掛詞)。高線量のエリアこそ建屋内部ほかのごく一部にまで縮小させ、かつ放射線物質の飛散防止策もほぼ計画通りに進んでいるとは思うものの、今後何が起こるかなどは誰にもわからないことではあります。でもだからこそ、


(このページではあえて「フクシマ」という差別的表記を用いてます。ご了承下さい)

いわゆる「ゼロベクレル信奉」とか「保養」とかがそれにあたると思いますが、この地球上に生きる誰しもが自然放射線の影響からは逃れられません(宇宙から飛んできているので)。それに、わたし(1964生)などは大気中核実験による人工放射線物質を当時たっぷりと身体に取り込んで成長してきた世代です。

そういう経緯を無視して福島第一原発事故だけを忌避するのはまさに「木を見て森を見ず」でしょう。恐いのは「強く浴びすぎる」ことだけだと思います。放射線による健康被害は、同じ「電磁波」に分類される「紫外線」を浴びすぎると日焼けするのと考え方としては同じことだと吉川さんがおっしゃっていましたがまさにおっしゃるとおりかと。

あ、この話はもうおしまいにしましょう。自分の思っていることはだいたい語ったつもりなので(反原発なのか否かとは全く別の話)。





第一原発から2km沖へと少し下がったところで調査開始、生き餌のイワシを付けて(もらって)、「底に着いたら数十cm巻き上げて、うん、リールひと巻半かな、あとは待ち。食った感じがあってもすぐに合わせないで、ぐっと引いたところで巻けばいいです」と言われたとおりにしていたところ、何と着底後たぶん1分もしないうちに強い引きが!



船の関係者は当然ですがさすがプロ、自分でロッドを持っているわけもないのに「引きの動き」で魚種がわかるんですねー。というわけでじわじわと巻き上げてみると‥







出世魚のブリなので、イナダなのか次のワラサに近いのか?右上画像にライターを置いて撮影ね(笑)。



こうして測ってみたところライター(8.3cm)*7+顔のあたりは切れていて5cmくらいかな。合計63.1cmということでやっぱりイナダ!

し、鹿し、鹿師ですよ、こんな魚がど素人にいきなり釣れてしまっていいのでしょうか?でも、その疑問というかトキメキはこのあとどんどん「これが現実だ!」へと転化していったのでありました(笑)。





特によく釣れたのが上画像のようなヒラメでありまして、50-60cmサイズのものが皆さんの竿に面白いようにかかるわけです。



ほら、Takemaのヒラメだってそれくらいのサイズはありますよね。ええっとヒラメ釣ったの、初めてです(カレイはこちらで)。



ちなみにメディアの方々以外は「海洋調査作業=釣り」に没頭となったのですが、あくまでこの作業は「爆釣バトル」ではなく「海洋調査」なので、同じ魚種ばかり釣っても意味はありません。ゆえに途中から‥



とのお達しが船内に響き渡りました!ええっと、あとから調べたことですがヒラメは「大きいがゆえに尊からず」、一番美味しくて高値が付くのは50-60cmのサイズなのだとか。そ、それをリリースするって?(大笑)。



それでも釣り続けますよ。八○さんのヒラメは大きい!(80cm級)。Takemaはも別の魚を(それにしても日焼けがすごい)。



なお、そんなわれわれをドローンに据えられたカメラがずっと追っておりました。竿の前方で釣れるのを待ってたし(笑)。

この日は「ふだんはあまり釣れない」という2km沖でもそこそこの釣果があり(Takemaがイナダを釣ったのもそこ)、そのあと通常の10km沖ではもう爆釣で「タモを持つ人が足らない」というようなときもありました。このことからいえること、それはもうもうわかりきったことですが、



ひとことで言えば「獲り過ぎ」ですよ今の日本漁業。「大漁」こそが漁業者の誇りという時代はもうやめてほしい。北海道におけるかつてのニシンはもちろんのこと現在形としてのホッケ資源、そしてどうやらサンマ資源もそうです。どなたかがおっしゃっていましたが「さんま漁獲高の減少の言い訳は外国船のせいにできるから声高に報道する、でもホッケは外国船の関係がないからニュースにならない。でも同じこと、『獲り過ぎ』なんだと」。

自分も間違いなくそう思います。一定以上は獲っちゃいけないし、そのため値段が上がってもそういうものだからしょうがないという方向にシフトさせることが大切です。ウナギなどはスーパーやチェーン飲食店店などでは販売させず、専業およびそれに近い料理店でしか食べられないようにして、かつ出所がはっきりしているものしか市場に流通させないようにしてヨロシイ。「高いが美味しいから食べる」人向けの魚にしましょうよ。(成り行きは違いますが現在の鯨肉が多少それに近いかなと)。



朝焼小焼だ
大漁だ
大羽鰮(いわし)の
大漁だ。

浜は祭りの
ようだけど
海のなかでは
何萬(まん)の
鰮のとむらい
するだろう。 


(金子みすゞさんの有名な詩ですね)

漁獲制限を設けている北欧諸国の漁業者はそれによって収入が低下したということでもないようです(流通量が減れば当然仕入れ価格も上がりますから=まぁここに複雑な日本の流通機構がその流れを阻害することは否定しません)。

でもそれをしなければ早晩漁業の危機はやってくることでしょう。それもホッケやサンマのように一気に。頼むし農水省方針転換してよ水産庁のヘタレ規制を何とかしてよと思う次第です。

これほどまでに復活した相双の海、そして「乱獲しなければ魚はちゃんと育ち数を増やす」、このことを深く感じ入ったTakemaでありました。

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